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それを知っているからか、抵抗すると、彼女の母親までもが出張ってきてヒステリックに騒ぎ立てて時間がかかるため、仕方なく彼女の要求を呑んでいた。
私がそんな態度でいるからか、古くからこの家に仕えていた忠臣たちは、やきもきした気持ちを抱えていた事だろう。申し訳ない。
「ーーそれは違うわ、リーベス」
彼の言を訂正するために、私はベッドの上から降りて、彼の元へと歩み寄った。
綺麗な黒髪と、鮮烈な赤い瞳をもつ執事は、私よりふたつ歳上だっただろうか。
出会った頃は同じだった目線も、今は随分と違ってしまった。
身長の高い彼を見上げると、前髪のカーテンが目に入って痛かったので、やっぱり早めに前髪を切る事をそっと心に決めた。
リーベスに近づいた私は、そっと彼の手に触れる。
手袋ごしではあるが、じんわりと温かい。
私のその行動に驚いたのか、リーベスは分かりやすくびくりと肩を揺らした。
「私は、本当に大切なものはあの子にあげた事がないのよ? この家だってそうだし――そういえば、貴方のことだって」
「俺……ですか?」
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