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その1 婚約解消は突然に
「ーー婚約の解消?」
私の目の前には、申し訳なさそうに眉を下げる金髪の青年と、やけに着飾った義妹のペスカが並んでソファーに座っている。
私がそう訊き返すと、義妹は急に瞳に涙を溜めて、隣にいるその青年に縋り付いた。
「ほら……お姉様は怒っていらっしゃるわ……! やはり許されない事なのよ……」
「話せば分かってくれるさ、メーラなら」
男女二人は見つめ合うとひしと抱擁を交わす。
ちなみにメーラとは私の名前なのだが、眼前で繰り広げられる寸劇に、目眩がしてきた。
大半は寝不足のせいなのだけれど……徹夜明けの朝にこの訳のわからない光景はきついものがある。
「……ええと、ごめんなさい、頭が回らなくて。ウーヴァ、あなたはさっき、私との婚約を解消すると言ったわよね」
「ああ、そうだ。メーラには申し訳ないと思っているが、僕は自分の気持ちに嘘はつけない。ペスカを愛しているんだ!」
愚直なまでに胸を張るその男――ウーヴァはケルビーニ伯爵家の次男だ。
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