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裏道のおともだち
小学生のころ、いじめを受けていた。
買ったばかりの鉛筆は川に流されるし、筆箱も色鉛筆も、体操服も隠される。
だから学校には行きたくない。
だけれど、誰もわかってくれない。
僕は、毎日いじめっ子達に見つからないように「裏道」を通って帰った。
アパートとアパートの裏を潜り抜けるとそこは別世界。沢山の足を持った蜘蛛さんにねずみさん。年寄り猫の猫のこずえさん。沢山のおともだちが居るんだ。そして、一番の理解者は「さえちゃん」。さえちゃんは、僕がいじめられて裏道から帰る時、いつも僕の手を取って「今日も頑張ったね。偉いね」って言ってくれるんだ。
僕、ほめられた事なんてないから凄く嬉しくて。
さえちゃんが大好きだった。
さえちゃんと帰り道の裏道で会えるから…。
だから学校を休まなかった。
さえちゃんと話すお話は凄く楽しい。
さえちゃんはランドセルを背負ってなかったけれど、多分同じ学校の子だろうなぁ。
さえちゃんとアパートの角に座って沢山沢山お話するんだ。
年寄り猫のこずえさんも楽しそうに聞いてるし。僕にとっての理想郷がここにはあるんだ。
だけど、さえちゃんは僕のお話を聞くばかり。学校のことも、あんまり知らないみたい。だから僕、さえちゃんに学校のこと色々教えてあげたんだ。
そしたらさえちゃん、凄く嬉しそうで。
僕もなんだか、嬉しくなったよ。
「今日はね、昨日買ってもらったばっかりの鉛筆がゴミ箱に入ってたよ」
「昼休みはトイレに閉じ込められたんだ」
僕は沢山沢山、お話した。
そしたらクラスのいじめっ子がね、ある日僕に言ったんだ。
「お前が、アパートの前でずっと独り言を言ってるってかあちゃんから聞いた。気持ちわりぃ。こっち見んな」
やだなぁ。僕はさえちゃんと話してるんだ。
そしてこれからも沢山沢山話すだろう。
ずっとね。
だけれど…その日から何回裏道を通ってもさえちゃんが姿を現すことはなかった。
蜘蛛さんも、ねずみさんも。年寄り猫のこずえさんも。
皆どこに行ったんだろう。
僕を独りにしないでよ。
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