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ワシはまだ生きとるぞ!
さて、父さんとタクヤが考えたハードスケジュールはまだ続く。せっかく四国に来たのに、昼過ぎにはもう『快速マリンライナー』に乗って、岡山駅に戻るのだ。
これもまた旅行の予定を立てていた時の話だが、特急『うずしお』の件で痛い目を見た俺は、謙虚な態度で二人に尋ねてみたのだ。
「『サンライズ瀬戸』は岡山駅を通って高松駅に行くんだろ? じゃあ、岡山駅で『サンライズ瀬戸』を降りたらいいじゃないか? もちろん、その余った時間で岡山駅から出発する他の珍しい電車に乗るつもりだよ?」
俺がそう言うと、二人は声を揃えて、
「「途中で降りるのはもったいない」」
と、言った。
二人曰く、寝台特急とは、出来ることなら終着駅まで乗りたいものであるらしい。タクヤと喜びを分かち合うには、まだ精進が必要らしいと悟った瞬間であった。
岡山駅で新幹線に乗り換え、本日の宿泊地、博多には17時過ぎに到着した。
俺たちは駅近くのホテルに荷物を預け、俺を先頭にして次の目的地、福岡空港目指して地下鉄の駅へと向かった。
「パパ、地下鉄は詳しいんだね」
タクヤが俺を見つめている。
「ああ、パパは何回か飛行機で博多に来たことがあるからな。空港からは、いつも地下鉄を利用してたんだ」
「パパ、スゴイや!」
なんだろう。この旅始まって以来、初めて息子にカッコいいところを見せられた気がする。ありがとう、福岡市交通局さん。
俺たちは福岡空港に到着した。
俺たちがわざわざ空港に出向いた理由、それは——
「おーい! こっちこっち! やだぁ、アンタ、タクヤ? しばらく見ないうちにまた大きくなって!」
「おばさん、久し振り!」
「もう! アタシのことは『アキちゃん』って呼んでって言ってるでしょ!」
「えー、なんか恥ずかしいよ」
この賑やかな女性は俺の妹の秋奈。今年で36歳になるがまだ独身。秋奈は少し遅れて旅行に加わることになっていたのだ。
「おい秋奈、声が大きいよ。恥ずかしいだろ」
「もう、アニキは相変わらずシャイなんだから。それから…… そこの頑固オヤジ、まだ生きてたのね」
「ああ。行き遅れの哀れな娘の花嫁衣装を見るまでは死ねないからな」
「フン、相変わらず口の悪い頑固ジジイだこと」
「ハン、お前の口の悪さに比べれば、ワシなどジェントルマンだ」
「あはは、ジイちゃんとおばさんは、本当によく似てるね」
そうなのだ。小さい頃から妹は父親似だとよく言われていた。
勝気な性格は父親譲りなのだろう。だが、妹は昔から母親似だと頑なに言い張っていた。
一度言ったら絶対に譲らない頑固なところは、実は父親にそっくりだということに気づいていなかったようだ。
「父さんも秋奈もいい加減にしてくれよ…… ああもう話は後だ。とりあえず夕食にしよう」
こうして、今日の夜は賑やかなうちに幕を降ろした。
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