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心配して悪いのかよ!
翌朝。
「クッソ眠い……」
「おばさん、ちゃんと目を開けてないと危ないよ」
只今の時刻は午前7時過ぎ。
秋奈を加えた俺たち4人は、7時30分に発車する『にちりんシーガイア』に乗車するため、JR博多駅にやって来た。
この列車は、博多駅から宮崎空港駅を約6時間かけて結ぶ、超長距離走行特急である。今回の鉄道旅行の中で、タクヤが最も乗りたいと言っていた列車だ。
父さんとタクヤに案内されて車内に入る。そこで秋奈は驚愕の声を上げた。
「なんだこの豪華な部屋!? これって個室なのか? なんだかホテルみたいじゃないか!」
「ふふーん、スゴイでしょ? この部屋は『グリーン個室』っていうんだ!」
得意げな様子で答えるタクヤ。更に——
「この部屋はね、今までは夕方に宮崎空港駅を出発する上り列車にしかなかったんだよ。でもね——」
タクヤはこれでもかというほど嬉しそうな顔をして、堰を切ったように話し始めた。
「フッ、夏樹よ。お前もキャンプ場でこんな顔をしていたぞ」
「……いつの話をしてるんだよ」
まったく、父さんには敵わないな……
列車が博多駅を発って、しばらくして。
室内を撮影するからと父さんに言われ、俺と秋奈は一旦、部屋から追い出された。
仕方ない。俺と秋奈は車内の自動販売機コーナーに向かうことにした。
「ねえ、アニキ。ちょっと気になることがあるんだけど……」
秋奈が心配そうな顔をして口を開いた。
「どうした?」
「アタシたちが使ってる、あの豪華な部屋。あれって結構イイ値段がするんじゃないの? それにオヤジが持ってたあのビデオカメラ。あれも高級品じゃないのかな?」
うーん…… 実は俺も気になっていたんだ。俺たち親子の交通費だけではなく、秋奈の往復の飛行機代まで父さんが出すと言ってきかなかったのだ。
本当のところ、俺が九州旅行に反対していたのは、父さんの経済状況を心配していたためなのだ。
「オヤジのヤツ、まさかボケてんじゃないだろうね?」
「おいおい、まだそんな歳じゃないだろう」
「でも、オヤジってば60歳で定年退職した後、再就職してないんだろ? 生活費は大丈夫なの?」
「さあ…… でも父さんは昔から、家族のために使う金は惜しまない人だったからな……」
「ああ。アタシもソフトボールやってたから…… 遠征費やら道具代やらで、かなりお金を使わせちゃったからね」
「孫のタクヤが可愛いんだろうけど…… 実は俺、旅行から帰ったら、母さんにコッソリ俺たち親子の旅費を返そうと思ってるんだ」
「ああ、それがいいね。アタシもそうするよ」
「ふふ、お前も口ではいろいろ言いながら、ちゃんと父さんのこと心配してるんだな」
「……当たり前だろ。オヤジから旅行に誘われるなんて初めてだからね。なんだか心配になって、仕事を休んで飛んできたよ」
まったく…… 家族想いなところも、父さんにソックリだよ。
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