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「中国語はわからないよ」
「啊、操。とんだサイコパス!ゾディアックの名を語るなんて!」
「本物はCIAの監視下に置かれているから、おそらく熱狂的な信者だろう」
オレンジ色の視線が蘇り、また背筋が凍る。
──I'm a man who can't be 13
(私は13になれない男)──
「よけい気味が悪いのよ。自分が注目されないからって、3301に敵対してるんだわ」
「とりあえずKT、君はしばらく潜伏しておいて欲しい。内通者は僕が割り出すよ」
「ええ。よろしく頼むわ。気を付けて4番目」
「11番目も」
通話を切ると、携帯をソファに投げ捨てた。ウィッグを脱ぎ、ベリーショートの髪を掻きむしる。
大きくため息をついた。
何も置かれていないデスクの一点を見つめ、下唇をつまむ。
逡巡する思考のさなか、耳鳴りのようなあの蝉の声が響く。追い立てられているのか。
それとも誘い込まれているのか。
デスクに背を向けて、足を出す。次の一歩が二の足を踏む。
「啊。真是的!」
デスクに向きなおり、足をかけて乗り上がる。天井には点検口。親指の爪でロックを回して開ける。背伸びして手を入れた。断熱材の奥、隠されたものを取り出すと、それはダイヤル式の簡易金庫。4桁のダイヤルを回す。3301。すんなり開く。
フンと鼻を鳴らした。
中身は様々なカードやパスポート。それらの中からいくつか取り出して、元に戻した。
好奇心に導かれ、その真理を、その謎を、知りたいと望むのは人の性なのだろうか?合理的な淘汰の末に、人の持つ好奇心は生存戦略に関わるファクターたるのだろうか。
そっとドアを閉じると、外は熱帯夜だ。街の喧騒が気温とともに増している。街灯の明かりに吸い寄せられるかのように中へ溶け込む。ふと、オレンジ色の視線を感じ、背後に目を向けた。
──13になれない男──
自身の手で正体を明らかにしたいと探してしまう自分がいる。
アンダーグラウンドでひしめき合うノイズの陽炎。見え隠れする奴の痕跡を探るため、KTは隠れ家を後にした。
END
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