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「Oh, I see. It's hard to see what is under your nose! そうなのです。その暗号は、そうでしたー」
頭を掻く彼の、黒いアンダーシャツの袖口から、アルビノのように白い手首があらわになる。その内側にタトゥが覗く。十字架に円がちらり、頭の端に残った。
「そのナンバーズをかけあわせマースとURLが分かりましたー。そのページにはまた暗号でー。解くと、座標でしたー。世界中のいろいろなところデース……」
なにやらまた自分のスマホを操作しはじめた。
「そこに……何かあったのですか?」
「はい。ありましたー。ポスターでーす」
サムは自分のスマホを京子に向けて画像を見せる。
スマホの画面には電柱が写っている。そこに貼りついた張り紙。その中央には黒い蝶の絵……ではなかった。
蝉だ。
羽を広げた蝉が石化して、丁寧に土から掘り起こされたような印象を受ける。まるで蝉を魚拓したかのような。奇妙というか、胸騒ぎというか、目を離すことができない謎めいた意匠。画質が悪くて読み取れないが、その下に数行何か書かれていた。
「これは、2014、沖縄で撮影されたものでーす。ここに書かれている番号が、また次の暗号へとつながってーいます」
「すごい!沖縄にも!はじめて知りました、そんなこと現実であるんですね。スパイ映画みたい」
「そう、デス。インターネットの外へ飛び出しー、Cicadaはよりリアルを増しましたー、彼らのクエストに、ヒートアップする人がたくさんになりましたー」
「結局、彼らの正体はなんだったか、わかったんですか?」
サムは両手を広げて肩をすぼめる。
「残念デース、せっかくなのですが、本当のことはわかってないのデース」
木々が大きく揺さぶられている。さきほどよりも風が出てきた。
「暗号を解いてー、彼らとコンタクトした人たちはいます。しかしー」
人差し指を当てながら声に出さず、唇が、トップシークレット──そう動いた気がした。
「今回も、座標が解かれましたー。14ヶ所デース。しかしー今回は難しいデース。誰もそのポスターを見つけられないのデース。これはみんな、こまたー」
京子は下唇をつまみながら考える。
「なるほどですね……」
俯きがちに目を伏せて、雨の雫が行き着く先の、ただ一点を注視する。
暗号を解き、座標に行き着いた。けれど張り紙が見つからないのはなぜなのか?導き出せる可能性は、何通りあるのだろう。
「そもそも座標が間違っているのでしょうか?」
「ノー、その可能性は低いデース。なぜならー、その解読以外では、意味をなさないからデース」
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