夕立ちの蝉

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「誰かがその張り紙を持ち去ってしまった。とかは、考えられますか?」 「Yes. その可能性は、ありマース。But. 世界のいろいろな国に、14もある、ポスターをー、誰にも見られないようにはー、とてもリアリティではないデース。1人では無理でーす」 確かにサムの言う通りだ。おそらく解読された各地の座標は、ネット上で共有され、即座に世界中のマニアに知れ渡ったはず。ならば、一番にそこへ駆けつけられる人物は、その座標の近いエリアに住む住人だ。それぞれが見つけたメッセージを、発見者全員が共有せずに、独占を計ったとは考えづらい。そう指示があったのなら…… 京子は唇から手を離す。 「見つけた人はポスターを他の者に見せないようCicadaから指示があった……?」 「No. 座標しかメッセージはありませーん」 ふぅ……とため息をついて空を見上げる。この風雨に抗いながら、鳥がよろめきながら横切ってゆく。 「じゃ、今回は張り紙が貼れない、何らかの事情があったのかもしれませんね、Cicada側に……」 雨音が、それ以外の音をかき消してゆく。地面の波紋がより慌ただしく、稲穂が激しく波打っている。 雷の閃光。サムが向けるオレンジ色の目が、にたっと細くなり、光る。それを皮切りに雷鳴と滝のような雨が降り注いだ。 「………」 サムが何か言っている。 「……はい?」 激しく降る雨のせいで何を言っているのか聞き取れなかった。 本降りのノイズのなか耳を澄ます。 「あなたが、『シケイダ(・・・・)』デスね」
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