夕立ちの蝉

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しばらく黙ったまま、真面目な彼の顔を見ているのが堪えきれなくなった。 「……ぷっ」っと吹き出し、思わず大笑いしてしまう。 「何を言いだすのかと思ったら……あはは」 指で涙を拭く。 「私?私はただの通りすがりにすぎませんわ。その謎の秘密組織?難しい暗号を、私が作れるわけないじゃないですか」 「Yes。but……キョウコ。あなたこそなぜ一人で、ここにいますか?誰にも知られないよう、メッセージを貼りに来たのでは、ないデースか?」 「偶然ですわ。Accidentallyです。 ふふっ」 つられてサムも笑い、うなずく。 「Okay。by the way. キョウコは、Amgie《アムジー》を知ってますか?」 「……え?ああ……はい。あの、ショッピングサイトですよね。有名な」 「そうです。世界のシェアがたくさんありマース。その本はーAmgieで買われたのですか?」 ずっと、ハンドタオルで表紙を伏せ、見せないようにして持っていたペーパーバック。オレンジ色の視線が向けられている。 「いえ、これは……」 彼はかまわず話し続ける。 「Very very accidentally. たまたまなのですがー。『Liber Primus』という本がありマース。Cicada 3301が暗号を解かせるために書かれた本なのでーす。and…… その本は、Amgieのサイトでしか手に入りませーん。必ず、暗号はー、この本にいきつきマース。それからー、何年もかけてますがーまだ全部のページをー、解読できてないのデース」 ペーパーバックを両手で持ったまま目を落とし、動かなかった。 「『Liber Primus』は『最初の本』という意味デース。Primusというのわー、ラテン語でーす。いまはPrimeになりました。Amgieというサイトは、たくさんのサービスがありマース。Reading book,Shopping, Video streaming……『Prime』というワードを使ったサービスもありましてー。ワタクシは、とてもこの偶然に興味がありマース。Cicada 3301のナンバー3301は素数デース。英語では『Prime』Number。とても面白いaccidentallyデース。ワタクシは──」
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