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サムの顔を伺う。不確かな憶測が的外れだったと認めるだろうか。京子には、わかりかねた。
「オー!サン=テグジュペリ!それはとても素晴らしいデース」
相変わらず、なにが楽しいのかニヤけた表情は崩れない。より機嫌が良くなったようにも見える。
「あら。それは嬉しいです。私、これを必ず持ち歩くんです。なのでもうボロボロで……恥ずかしくって、つい隠してしまうんです」
デイバッグに本が入るだけの隙間を開けて、そそくさと落とし込んだ。雨はまだ止まない。もどかしさが募ってゆく。
サムは胸いっぱいに息を吸い込んで、目を輝やかせた。
「アリガトウゴザイマース、今日わ楽しかったデース。満足デース!ステキなレディとお話ができたのは良いデスネ。こんなユウダチでしたらウェルカムです。オゥ。ユウダチ、トモダチ!似てまーす!ハハッ」
そんなことを言いながらフードを被り、歩きだす。
彼は全身に雨を受けながら、両手を広げて天を仰ぐ。あの時彼が口ずさんだフレーズが蘇る。
──I'm a man who can't be 13
(私は13になれない男)──
ゆったりした動きで華奢な両手を踊らせる。それは、まるで昆虫の羽のよう。
「実は、あなたによく似た人を、私は知っていマース!」
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