夕立ちの蝉

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◻️ 上海に着くと、とにかく早めに目的の場所へ身を隠した。 守秘回線の端末を取り出し、番号を入力する。 下唇をつまみながら、殺風景な部屋の中を当てもなく行ったり来たり。のんびりしたリズムのコール音が苛立たしい。 繋がった。 通話の向こうで笑っている。そんな空気の流れが耳に入る。 「Hi,京子(KT)……」 「Hi……じゃないわよ!まったく!簡単な任務って言ってなかった?」 「いやぁ。ほんっとすまない。こんなことになるとは思わなかったんだ。まさか姿を現すとは……」 「危うく殺されてたかも!」 「まさか。日本は武器の所持に厳しい治安国家だ。相手もそうそう目立つことはしないよ」 「酷い目にあった!」 「ああ……心から謝罪する」 「で?なんなのあいつ。ていうかなに?こんな本持たせて。指定のポイントまで行ってチラつかせてくる。それだけだったはず……」 「うん。あとは僕があぶりだすつもりだった。君に迷惑をおかけるつもりなんてサラサラないよ。確証があったわけでもなし。ほとんどダメ元のつもりだったんだ」 「まんまと踊らされてたってわけ?!アタシも、あの男も!」 「…………」 「ねえ。なんか言ってよ」 「本当にすまない」 重いため息をつく。自分でもわかっていた。年恰好からして、ベイリー氏の娘になりすますのには、自分以外に適任者はいない。だからこそ彼は、自分にしか秘密を共有しなかったのだ。 「もういいわ。それで、収穫あったの?」 「まだこれからかな。アイツらがうまく騙されてくれたら、何かしらしっぽは掴めると思う。KT(ケイティ)の変装がバレるのも時間の問題だけど」
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