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まあ、さして私にとっては大事ではないのだから呑気に構えよう。お気に入りのデイバッグからハンドタオルを取り出し顔を拭く。それから薄いペーパーバック。表と裏を返す返す見ながら「よかった。濡れてない」と独りごちた。
ハンドタオルで髪を撫でつけ、こんなんじゃ吹ききれないなと、
「なかなか。ヤムのマダですねー」
「ひっ!」
突然の声に京子の悲鳴は裏返った。
見ると迷彩柄のレインコートが目に映る。頭からフードを被っていて顔がよく見えない。やたらと目だけが蛍光オレンジに光る。その影が歯を見せて笑い、話しかけてきたのだ。
「オー。ソーリー」
と慌ててフードを取ると、日本人ではなかった。サイドを刈り上げた金髪。細長い顔が余計長く感じる。ややオレンジ色した虹彩を放つ二つの目が、ぎょろりと京子を見つめている。
「オドロカナイ、デ、クダサイ。私もすこしーオ休み、したくて……デスね」
目を細めながら手をヒラヒラさせて弁解している。が、完全に怪しい。気配が全く感じられなかったのだ。一体いつの間にどこから現れたのか。もしかしたら気配を消して、人が来るのをずっと待ち構えていたような気もする。
京子はバッグを抱きしめながら、固くなる。
男の背中にしょっている何か、ひょろひょろな手足にその背中の丸みが異様な生き物の背中に見えた。ふと、カメレオンが思い浮かんだ。目の前の男を形容するにはぴったりだ。
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