夕立ちの蝉

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「あー。ワタクシ。虫をリサーチしてるところデース。やー。まいりましたですぅ。スゴーいアメデース。まいたぁー」 頭を搔かきながら、ニタリと笑う。 「はあ」と愛想笑い。まさか食用ではないだろうな。と一瞬よぎる。 「せっかくニホンに来たのデース。こうトゥユーがありますとスケジュールがダメでーす」 to you? がある?なんのことだろう。 「ニホンは雨多い聞いてましたがー。これはこまたー」 あ、そうか。思いついた。 「『夕立ち』……です。『梅雨』ではなくて。しばらくすれば晴れてくると思います」 「ユ、ウ、ダチ……?」 「はい。えーと、たしか。ウタガワーヒロシゲー。ウキヨエー、アート……」 なぜか自分まで片言になっている。おかしさを京子はこらえる。その男もしばらく考えを巡らせると合点したように手を叩く。 「オライ!ガリット!ワタクシ。大好きです!ウキヨエ!」 ちゃんと伝えられたかあやしかったが、素性がわからないだけにいまはまともに話してはいけないと京子は警戒していた。ここは、日本なのだ。 笑いあうと、会話はそこで切れてしまった。 気まずい雰囲気から逃げるように空へ目を移す。天候は先程よりも風が弱まってきていた。 いざとなれば近所の民家に逃げ込めばいい。たしか左の方が近い。バス停の方。 男はなにか調べものでもしているのか、ニンマリ笑いながらスマホをいじっている。落ち着かない。 「アナタは『周期ゼミ』を知って、ますか?」 「は、はい?」
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