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「シュウキゼミ。デス……」
眉を寄せて、通じたか不安な彼の視線を感じながら『シュウキゼミ』が日本語なのか英語なのか悩んだ。
おそらくは……
「えっと……たしか、何年かに一度しか、出てこないセミ?……でしたかしら……」
ここまでの道中、スマホで目にしたネットニュースで知っていた。たしかブロード何とか。アメリカで今年、その蝉が大量発生しているらしい。
「Yes! プライムナンバー!13。17イヤーズに一度、ジメンへ出てくるクレイジーなインセクトです!ワタクシ、彼らのエコロジーを調べていマース!」
目をぱちくりさせ、またも「はあ」とこたえるしかなかった。
「申し遅れました、ワタクシ、サミュエル。サミュエル・ティンバーレイク、デス」
「あ。えっと。ニホン……。二本松 京子です」
大きく頷くサミュエルは、
「オー!キョウコ!グッネーム。コールミー、サム」と相変わらずニンマリとした表情は崩さない。なんだか変なのに捕まってしまったなと京子は内心舌打ちした。
もちろん顔には出さずに自分もファーストネームで呼ぶよう伝えようとしたが、すでに名前で呼ばれていたことに気づく。
話を合わせて天気が回復したら適当にあしらって退散しよう。
雨脚は弱まっている。
サムは上機嫌で、またアメリカの周期ゼミについて話をはじめてきた。どうやら今日は蝉の講義を受けないといけないらしい。
件の蝉はブロードXという種の、17年周期で大量発生する蝉なのだという。
蝉は短命とばかり思っていたから、スマホで知った時も意外だった。やはり、そんなに長生きするものなのか。
自然と彼の話に興味を持ち始めている。なぜか17年周期、素数という数字に惹かれてしまう。
周期ゼミが素数の年にしか現れないのは、種の保存、交雑を防ぐための長い期間で淘汰された、彼ら特有の生存戦略なのだとサムは言う。
研究を進めるにつれ、解明できないことが多いのだと。オレンジ色の目を輝やかせながら、先程よりも高いトーンで語り続けた。
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