白TシャツとナポリタンとLemon

1/25
前へ
/25ページ
次へ
男の胸に穴が空いた。 穴が空いたかと思うと、たちまち白いTシャツが紅く染まっていった。 「いてぇ」 しわがれたような声でそういうと、男はタバコを5本咥えた。 レンガ調の壁にもたれ掛かり、タバコをふかした。 「いい、人生だった。ごほっえほっ」 さすがに5本は行き過ぎた、と男は思った。むせきすぎて、嘔吐しそうだった。 せっかくのカッコいいシチュエーションは、できれば最期の時まで貫き通したかった。 「ガブリエル、死なないで。ガブリエル、もう少しだから。がぶり」 男に覆い被さるようにして、ジェニファーが涙を流していた。 「痛いな、ジェニファー。僕の二の腕はそんなにいい肉じゃないぜ」 ジェニファーが少し身を引くと、ガブリエルの二の腕に歯形がついていた。 ガブリエルの名にあやかって、噛み付いたのだ。 効果音も自前だった。 「ごめんなさい。つい...」 「はは。お茶目なお嬢さんだな。じゃあ僕はここらで失礼するよ」 そう言うと、ガブリエルは静かに目を閉じた。 「そんな。嫌だ。ガブリエル、がぶり、ガブリエル!・・・・・・あああああああああああ!!!」 甲高いジェニファーの声だけが響いた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加