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男の胸に穴が空いた。
穴が空いたかと思うと、たちまち白いTシャツが紅く染まっていった。
「いてぇ」
しわがれたような声でそういうと、男はタバコを5本咥えた。
レンガ調の壁にもたれ掛かり、タバコをふかした。
「いい、人生だった。ごほっえほっ」
さすがに5本は行き過ぎた、と男は思った。むせきすぎて、嘔吐しそうだった。
せっかくのカッコいいシチュエーションは、できれば最期の時まで貫き通したかった。
「ガブリエル、死なないで。ガブリエル、もう少しだから。がぶり」
男に覆い被さるようにして、ジェニファーが涙を流していた。
「痛いな、ジェニファー。僕の二の腕はそんなにいい肉じゃないぜ」
ジェニファーが少し身を引くと、ガブリエルの二の腕に歯形がついていた。
ガブリエルの名にあやかって、噛み付いたのだ。
効果音も自前だった。
「ごめんなさい。つい...」
「はは。お茶目なお嬢さんだな。じゃあ僕はここらで失礼するよ」
そう言うと、ガブリエルは静かに目を閉じた。
「そんな。嫌だ。ガブリエル、がぶり、ガブリエル!・・・・・・あああああああああああ!!!」
甲高いジェニファーの声だけが響いた。
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