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第12話 自主イベント
よくある話だが、ゲームのシナリオ通りに進めようとするとフラグが立たないとか、破滅エンドを回避しようとしても補正が働いて回避したシナリオがやってくるとか、ラノベで読んだことがある。
そんなわけで、ゲーム通りに進めないことを決めた俺は、ゲームになかった『コレットと里帰り』と言うイベントを発生させてみた。
そもそも、俺ことシオンとコレットが同郷の幼なじみというのは設定にない。つまり、設定にないということはフラグが立たない、回収でもない。
俺は、この世界に生きる一人の人間として行動をとる。
の、だが、
「なんで、あんたがいるのよ?」
向いに座るコレットがちとおこである。
「里帰り」
「なんで、一緒の馬車なわけ?」
「一日一便しかないからね」
ふんっ、とコレットに、そっぽを向かれた。田舎に向かう乗合馬車なので、そんなに座り心地は良くないが、大人数が乗れるのでそれなりにお安い。
俺は、他の人の迷惑にならないように1番後ろに座ったのだけど、最後の最後になぜかコレットが乗り込んできて、俺の向かいに座ることになった。
なぜ、俺が迷惑にならないように、と言うのかはつまり、俺の服装だ。
休暇で里帰りを申請したら、なぜか近衛騎士の制服を渡された。つまり、休みでも休みではないらしい。親衛隊の服は白いから、汚れご目立たない近衛騎士の、制服を、着ていけ。って…
オマケに腰に帯剣しているものだから、一般のお客さんがちらちら見るんだよね、俺の事。
まぁ、結構距離あるし、街道は人気がないし、盗賊出ないとも限らないから、ついでに護衛なんだよね、きっと。
途中の町で人が乗り降りして、行商の人っぽいのとかいたり、役人風のが乗ったりして、俺の事を見ると小さく頭を下げてくる。近衛騎士って、だいぶ偉いんだなぁ。って、思っていたらコレットと目が合った。営業スマイルを振舞ったら、そっぽを向かれた。その向こうに座っていた町娘風の女の子は頬を赤らめてくれたのに。
アリトス領に入った頃にはもう夕方で、町外れに入った時には日が暮れていた。
辻馬車が入ると、門番が直ぐに門を閉めてしまった。
野犬とかいるし、犯罪者が入ってきたら困るもんなぁ、俺は一応近衛騎士の服は着てるけど、戦うのはやだなぁ、ってやっぱり思ってしまう。
馬車をおりて、門番に「お疲れ様です」って、声をかけたらやたらと、恐縮されてしまった。
「送るよ」
夜道は危ないから、コレットにそう声をかけた。
「へ、平気よ」
コレットは直ぐに断ってきたけれど、年頃の女の子なんだから素直になればいいのに。
「領主の娘よ?」
「領主の娘だからでしょ」
コレットは分かっていない。王都に行って垢抜けた自分が町娘より随分と、綺麗なことを。
「好きにして」
俺がコレットの、荷物を取り上げると観念してくれて素直に隣を歩いてくれた。
「それなりに賑わってるよな」
「織物は何とかなってるからでしょ」
小麦の採れが悪かった分、織物をなんとかしているようで、今頃仕事上がりの娘たちにやたらと見つめられるのが居心地悪い。
「愛想振りまけばいいのに」
「生憎手がふさがっている」
俺がそう言うと、コレットは俺を睨みつけ、荷物を取り返そうとする。
「無駄なことしないで、早く歩けよ」
俺はコレットに、荷物を取られないように大股で歩き出した。コレット家は一番デカいあの、家。俺の家は織物工場の近く。
コレットの家まで着くと、ドアを叩く前に家の中から家族が出てきた。中から見ていたらしい。コレットとの再開に喜んで抱きつく家族をみて、俺はそのまま立ち去った。別に、挨拶なんて明日でもいい。
実家に近づくにつれて、工場で、仕事を終えた人たちにやたらと絡まれる。
最初は近衛騎士の俺に驚き、明かりで顔を確認すると嬉しそうにハグをしてくる。
そんなことをしながら、家に着くと明かりがついていて美味しそうな匂いがした。
「ただいま」
そう言うと、家族が出迎えてくれた。この世界の家族。享年36歳の俺としては、やり直しというか、何ともむず痒い。
何年かぶりに寝た自分のベッドは、足がはみ出るぐらいに小さくなっていた。
軍の学校でよく体を動かしたから、相応育ってしまったようだ。道理で記憶にある家族の顔と角度が違うと思ったんだよね。みんなに見上げられていたわけだ。
明日はゆっくり家族と、会話ができるといいな。そんなことをら考えているうちに深い眠りについた。
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休暇を与えたのは自分なのに、王子殿下が不機嫌である。
そもそも、騎士でもある親衛隊が貴族でないこと自体が異例なので、里帰りなどということ自体がありえないことなのだ。あいつ以外は全員が王都に自宅のある貴族だ。
こちらに来てから一度も里帰りをしていなかった。と言う話を聞いて、休暇をとらせて、里帰りを許可した。と言うのに……王子殿下が不機嫌である。
仕方が無いので、あいつに監視をつけることにした。あいつは素手の方が強いので、必要ないと思うのだけれど、王子殿下の不安はそういう意味ではない。
だが、あいつは無自覚なのである。王子殿下のお気に入りという意味をそのまま素直を受け止めているのだ。
こちらの気も知らないで…
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朝起きたら味噌汁の匂いはない。前日買っておいたらしいパンを軽く炙ってそこにチーズがのっている。アニメとかで見るめちゃくちゃうまそーなやつ。それを食べながら野菜スープを飲んで朝食は終わり。体が資本の軍の食事に比べたら質素。だけど、懐かしい味が五臓六腑にしみ渡る。
父親は仕事に行くからと、なんだか慌ただしかったけれど、俺は忘れずにポケットから小さな袋を出した。
「仕送りしたかったんだけど、物騒だから」
テーブルに置いた時の音で、何かは察してくれたようだ。
「お前は大丈夫なのか?」
「兵舎にいれば三食食いっぱぐれないし、ほとんど制服で過ごすから自分で買うものなんてないんだよ」
そう言うと母親は嬉しそうに笑ってくれた。
「兵士になるって聞いていたのに、あの制服近衛騎士のものでしょう?」
「男前に産んでくれたから、引き抜かれたんだよ」
おどけて言うと、ばしばしと背中を叩かれた。
本当は王子付きの親衛隊にいるなんて絶対に言えないよな。近所から疎まれるに違いない。
里帰り、とは言っても身軽に来てしまってので着替えなんてない。そもそも、この世界のファッションセンスが皆無なので、私服なんて着られない。そう、ゲーム内で俺が私服を着ていたのは、王子と下町を散策した時ぐらいだから、あの服しか持っていないわけだ。
実家にあった服は、小さくてもう着られない。
ゆっくりと町中をふらついて、適当に買い食いをした。子どもの頃は食べたくても食べられなかったのを、今食べてみて、憧れと現実を知る。多分だけど、王都でいいもの食べすぎたんだろうな。
夜、明日の朝帰ると、話すと少しだけ寂しそうな顔はされたものの、俺からの手土産が有難かった。と素直に礼を言われて照れくさかった。
幼なじみたちは、既に結婚したやつもいるらしい。だが、王都に行った俺にはそういうことは望んでいないらしい。まぁ、結婚されたら仕送りなくなるかもしれないもんなぁ。
ゲームないでは、俺は結婚してなかったし、ハッピーエンドでも結婚はなかったんだよな。攻略対象が貴族の令嬢だったから。
これは、親を喜ばせるためにも、十年以内には結婚できるように頑張ろう。
ゲームのルートを気にしすぎるのも良くないよな。
んで、帰りの馬車までコレットと一緒だった。
行きも帰りも一緒だったからだろうか?御者の人が俺たちをじっと見ていた。恋人同士と間違われたか?
だからといってやたらと距離を取るのも変なので、誰もいないからそこそこの位置関係で座ることにした。
コレットは、しばらくしたら紹介状を貰って、王都内の貴族の屋敷に務めに出たいらしい。
理由は、婚活しやすいから。
そーだよなぁ、俺も最初は田舎で兵士をやりたかったもんなぁ。でも、なぜだか王子の親衛隊になって、割とお気楽にやれている。
「あんたは随分出世したみたいだけど?」
「一代限りの騎士爵位?無理だね、俺には」
「王子のお気に入りなのに?」
「だからこそ、欲しくない、それこそ陰謀に巻き込まれる以外考えられない」
そーだよー!俺は破滅したくないんだ。死にたくはない。俺だって逃げ出す方法を考えなくちゃいけない。
城にいる限り破滅から逃れられない気がする。何しろ陰謀渦巻いているのだから。
「王子のお気に入りだからこそ、捨て駒にされそーよねぇ」
コレットが笑いながら言うことは、俺の未来の予言のような気がしてならない。
「笑えねーよ」
「せいぜい気をつけるといいんじゃない?」
コレットは爽やかに笑ってそういった。
くそー、俺の破滅エンドは回避されないじゃないか。王子殿下のお気に入りって言われる限り俺に安寧は訪れないのか?
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