第15話 致したくはない

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第15話 致したくはない

 前金をはらいながら、食事より先に水差しに大量の水を頼んだ。酒じゃないので不審がられたが、既に飲んでることを伝えると、納得してくれた。王子が俺にしなだれ掛かるようにしているのがよかったらしい。  今更なんだけど、俺と王子ってどういう関係に見えるのだろうか?つか、俺の立ち位置はどっちなんだ?こーゆーのって、年齢とか立場とか関係ないよね?雰囲気?気分?  受付からは、そちら理由で部屋を汚した場合は追加料金を取ると言われてしまった。  王子に水を無理やり飲ませてみるが、飲み薬でないから吐かせても意味が無い。水を飲んで血中濃度を下げる程度の処置だろう。 「…うぅ……」  無理やり水を飲ませたせいか、王子が若干水を吐いていた。 「ああ、苦しいね」  俺はそう言いつつも、特に介抱してやるつもりは微塵もなかった。 「…っで、お前は………」  多分王子は俺に苦情を言っているのだろう。俺がまったく平気な顔をしているから。つか、俺までやられてたらこんなところでBLエンドとか笑えない。 「薬に対して免疫つける訓練ぐらいするでしょ?」  これでも兵士の学校出て、王子の親衛隊だから、騎士としての訓練だってやってるんですけどね? 「ねぇ、もしかしてリーはそーゆー事、やってないの?」  ボタンを外して首元を解放してみると、肌がだいぶ赤くなって上気しているのが分かる。目も潤んでいて若干充血気味だ。 「悪いけど、手伝わないからね」  俺はだいぶ薬にらやられている王子の服をぬがせつつ、冷たく突き放した。 「…………」  荒い息遣いをしながら、王子が俺を見つめているけど、そんなのに感化されて乗っかるほどガキじゃない。 「この程度のを、嗅いだだけでこんなになって」  服が汚れたら困るので、俺は手早く王子の服を脱がせていく。訓練で、服のぬがせ方とか呼吸の確保の仕方とかは一通り習っているから、自分より大きい王子の服を脱がせるのは大したことは無かった。 「困るでしょ?こんなんじゃ子種をばら撒きまくっちゃうでしよ?」  脱がせて風呂場に押し込んだ。  そーゆー事ができるように、風呂場の床は布が敷かれていた。 「お湯は湧いてるよ」  そう言ってお湯を体にかけてやると、王子の体が反応する。 「自分で、何とかしなさいね」  辛そうな顔をしている王子にそう言うと、俺は風呂場の扉を閉めた。 「いらっしゃい」  部屋の扉の鍵を開けると、先輩たちがおしいってきた。 「そんなのにしなくても」  音こそ立てないものの、先輩たちはだいぶ荒かった。 「王子は?」  低い声で問われると、俺は黙って風呂場を示した。 「放置か?」 「え?俺嫌ですよ?」  だいたい、そんなことに習ってないでしょ?しなくちゃダメなのか? 「いや、、まぁ……」 「だいたい、あの程度でこんなんとか、ダメダメでしょうよ」  俺がそう言うと、先輩たちは口ごもる。デリータがなんか言っていたけれど、詳しくは聞いていないので、俺はオブラートに包むようなことは言わない。 「お前に、耐性があってよかったよ」 「意外と真面目に訓練受けてるんですよ、俺」  そう言いつつ、チラチラと風呂場に目線が言ってしまうのは仕方がないだろう。微かにだけど、王子のくぐもった声が聞こえる。 「あそこは詳しく調べる。お前は…」 「外泊許可もらってもいいですかか?」 「お前一人に任せるのは不安なんだが」  先輩たちが顔を見合わせて目線だけで会話をしているが、ここで俺と入れ替わったら王子が不機嫌にならないとも限らない。王子にとっては失態だ。 「身バレはしていないはずだ。明日普通に帰ってきてくれ」  俺は腰から短剣を二本取り出して先輩たちに見せた。  それをみて、聞きたくはないがチッと言う舌打ちが聞こえてしまった。 「案外、だな」  先輩たちは自分の剣を置いていこうとしていたらしかったが、必要ないよな。ってことで俺に追加の金を渡しさて、帰ってしまった。  漏れた香を嗅いだだけでこんなになったと王子も王子なんだけど、こんなにしてしまうような香を使っているあそこもかなり問題だ。奴隷商に連れてこられた身なりのいい奴隷も気になるけど、そう言う調べは先輩たちがやってくれるそうなので、 「リー、まだ辛い?」  扉を開けずに風呂場に声をかけた。  返事がないが、音も聞こえないため俺はそっと扉を開けた。  俺が放置した所に、王子はまだ蹲っていた。姿勢が若干違うけれど、大した変化はない。 「リー、終わったの?」  手を伸ばしたら、思いのほか強い力で掴まれた。 「はぁ、…っと、も…」 「手伝わないよ?」  俺はできるだけ優しい顔をして、王子を見た。  縋るような目をしているけれど、最初ほどの熱っぽさは薄れてはいる。 「こんなことじゃあ、襲われちゃうでしょ?どっかの、令嬢に跨がれたら子種取られちゃうよ?」  俺が揶揄うように言うと、王子の目がキツく俺を見据えてきた。 「そんな目したって無駄だよ。現にリーはこんなでしょ?」  手伝うつもりは無いけれど、腰の辺りを軽く叩くと王子の体が軽く跳ねた。 「っ、く……」 「まだダメなの?」  俺は王子の顔を覗き込む。半開きの口からは赤い舌が見えて、それなりに色っぽいと思う。何せ王子はイケメンだから。  俺が何もしないで眺めていると、王子に手を取られた。指先が白くなる程の力で俺の手を掴む。  下から見つめる目が潤んでいるが、出来れば俺はそれに応えたくはない。だってしたことないし。  もしかして、モシカシナクテモ? 「リー、もしかして、自分でしたこと、ないの?」  首がコクンと動いた。  そんな話は聞いてないよ。なにそれ、王子って性欲処理もおまかせなの?それを、誰がしているのか出来れば考えたくない。考えてくないのだけれど…先輩たちのあの目線での会話は、ソレなのかな?  自慰行為っ、字面から言ってもわかるけど、自分でするんだよね?誰かにしてもらってたら、それは自慰行為ではない。なんだそれ、そんなの聞いてない。  つか、王子もこの歳なんだから、本能で出来るでしょう?雄の本能だよね?もしかして、ずっと誰かにしてもらってきたから、自分でやっても気持ちよくならないのかな?誰かの手がいいの?いや、待て、まさかとは思うけど、口……フェラ?とか、俺にはハードル高いすぎるぞ。 「え、っと、リー」  俺は改めて王子に向き合う。正面に座ってみた。 「リー、手なら、手なら貸すから」  俺の最大の譲歩案、手だ。  手なら何とか出来ると、思う。いや、ほんとに。身体は貸せない。無理だ。経験ない。  王子は理解したのか、その白い指先に、さらに力を込めてきた。 「待って、服脱ぐから」  このまま致してしまったら、俺の服が汚れる。濡れる。それだけは避けたい。  俺は慌てて服を脱ぎ、不本意ながら裸になって王子の前に改めて座った。脱衣所にあったそれらしき小瓶も持ってきた。この世界では使ったことは無いけれど、ローション的な物が入った小瓶。封を解いて掌で馴染ませ温める。  さすがに、王子の王子に冷たいものをぶっかけるとか、そんなことしたら手打ちにあいそうだ。  俺は覚悟を決めて両手を伸ばした。
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