第6話 お仕事の時間のようです

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第6話 お仕事の時間のようです

 その後、俺は警備と称して王子の執務室から少し離れた。カルメ焼きの件でまた説教されるのが嫌だったからだ。  王子のお出かけの護衛がめんどくさいなぁ、なんて思いながらフラフラしていたら、サロンで何か大事が起きていた。  全てのサロンの扉が閉められて、騎士が扉の前に仁王立ちをしている。  どの部屋もきっちりと扉が閉じられていた。  俺は慌てて襟をしめた。だらけて襟を開いていたのだが、どうやら有事と言っていいようだ。 「こっちに来い」  同じ親衛隊の制服を着た人物に呼ばれた。  親衛隊が呼ばれているのは、あまり、いいことではない。  呼ばれた先には、予想通りにデリータ王女がいた。  サロンの中にはデリータの他に令嬢が数人いたが、みな、青ざめた顔をしてソファに座り手を取り合って震えている。  長椅子に横たわる令嬢が見えた。  毒か?  絨毯に嘔吐物が見えた。  吐き出されたのはチョコケーキか、そんな色の食べ物、それと紅茶だろう。 「給仕をしていた侍女は拘束されている」  耳打ちをされて、相手を見た。倒れている令嬢は、既に医師が処置をしているようで、水を飲んでは吐かされているようだった。  俺は拘束されている侍女がきになって、そちらに移動しようと動き出した。ら、 「連れていきなさい」  デリータが睨むような目つきで俺の腕を掴んできた。 「王女が立ち会うものでは…」  騎士たちが制しようとするが、デリータは聞かない。 「私のサロンで起きたのよ。聞く権利があるわ」  なぜだかわからないが、俺がデリータを連れていくらしい。仕方が無いのでそのまま腕を貸した状態で騎士の後について行くことにした。  分かってはいたが、デリータは微かに震えていた。  サロンの給仕は、俺が使っていた厨房とは違うらしい。右翼棟にある厨房は、サロン専用らしく、料理をする場所ではなく、お湯を沸かしたりケーキを焼いたりする場所らしい。なので、そこにいる料理人もそれ専属らしく、王子の料理長とは違う人物が騎士たちに話をしていた。  俺はそれを横目に見つつ、給仕をしていた侍女のいる部屋に入った。そんなに広くはないが、普段は休憩室にでもしているのか、簡単な応接セットが置かれていて、そこに侍女が1人座っていた。  右翼棟の侍女が着るモスグリーンのお仕着せをきて、白いエプロンをつけている。  大人しそうな可愛らしい侍女だった。 「乱暴はされていないようね」  侍女の姿を見て、デリータかそう言った。。  俺が怪訝な顔でデリータを見ると、デリータは少し眉を吊り上げながら、 「騎士たちには貴族の息子が多いのよ。特にこの王宮の中はね」  デリータが、言いたいことが何となくわかった気がする。つまり、特権階級意識の高い騎士が取り調べをしたら、爵位ない侍女がどんな扱いを受けるかわかったものでは無い。ということか。  だからデリータはわざわざやって来た。ということで、 「彼女の取り調べは、このシオンにやらせるわ」  デリータかそう宣言すると、居合わせた騎士たちが慌てた。そりゃそうだ、侍女から自白なりなんなりを得ることが出来れば、手柄になる。なにせ、王女のサロンでことが起きたのだから。 「私のサロンで起きたこと。ならば、誰にやらせるかは私が決めるわ」  デリータは、この部屋にいる特権階級意識の高い騎士たちを信用していないらしい。 「例え王女の指示であっても、それは出来ません」  いかにもな、顔立ちの騎士が、デリータの意見を否定した。 「あら、そう?なら、私はここにいるから、取り調べをしてちょうだい」  デリータがそういうので、俺は椅子を用意して、そこに座らせた。 「こう言ったものは、王女が見るものではございません」  騎士がやんわりとデリータに退出をうながすが、 「あら?私が見ていたら不都合な事をするつもりなのかしら」  デリータはツンと顎を上にあげてそう言い放った。 「王女におかれましては、ご退出を」  騎士がデリータを退出させようと、少し強めの声を出した。 「構わないと言っているの。聞こえなかった?」  デリータはあえてにっこりと微笑んだようだ。自分の見ている目の前で、取り調べをして見せろ。と。騎士としての節度を守りながらやって見せろ。  俺は、デリータの横に立ってそれを傍観していた。どっちに転がろうとかまわないが、俺は自分の破滅フラグを立たせないために行動するだけだ。 「王女は、やはりご退出を」  特権階級意識の高い騎士は、余程デリータが邪魔なのだろう。いらだちを必死で抑えながらそう言うのが手に取るようにわかった。が、わかったからと言って、俺はそれを阻止するだけだ。 「私に触れるな」  デリータは凛とした声で命令を下した。  それを聞いて、俺は躊躇なく腰の剣を抜いた。  俺の仕事は、王子の大切な妹であるデリータを守ること。今この瞬間、俺はデリータの忠実な下僕なのだ。  王宮内で帯剣が許されていない騎士たちは、俺が剣を抜いたことで、かなり、動揺したようだ。 「早く取り調べをなさい」  デリータが再度促すが、騎士たちは何もしない。  特権階級意識の高い騎士たちは、侍女風情の取り調べなんてまともにできるわけがないのである。だこら、王女であるデリータがいては何も出来ない。 「無能者!さっさとこの部屋を出ていきなさい」  何も出来ない騎士たちに業を煮やしたデリータが、退出を命じた。逆らおうにも親衛隊である俺が剣を構えているので、何も出来ないようだった。  俺がいなければ、デリータを力ずくで退出させ、気絶でもさせて、厨房にいる侍女にでも介抱させるつもりだったのだろう。  騎士たちは、俺を睨みつけながら部屋を出て行った。最後の一人が出ようとした時、俺はそいつの顎に剣を向けて、 「王女に対するこの度の不敬、覚悟しておけ」  そう言ってやった。  物凄い形相で俺を睨みつけてきたが、たとえ貴族の息子であっても、本人が爵位をもっているわけではない。爵位の肩書きを失いたくないから騎士として居座っているだけのバカ息子に違いない。  王宮内の地位だけなら、親衛隊である俺の方が上なのだ。何もしてないけど、帯剣を許される地位を持っている。  一瞬、そいつはデリータの顔を見た。が、デリータは汚いものを見る目付きで騎士を一瞥した。  そいつは、顔を青くして部屋を出ようとして、事さらに顔色をなくした。目の前に王子が立っていたのだ。 「ーーーっ」  何も言えないまま、そいつは頭を下げた。が、 「さっさと出ていけ」  王子は不愉快そうに眉根を寄せると、俺を見た。  俺は、剣をしまうと、王子に一礼をした。  王子が部屋に入ると、扉がしまった。親衛隊が1人着いてきている。 「無事か?」 「ええ、このとおり」  目線を合わせないまま会話が進む。 「取り調べはどうした?」 「あの騎士たち、私がいたら取り調べができないそそうよ。何故かしら?」  デリータがそう言うと、王子の後ろにいた親衛隊が苦笑いをしていた。奴らの顔ぶれを見て、想像出来たのだろう。 「お兄様、シオンにやらせたいの」 「なるほど」  王子は、軽く俺を見てから1人所在なさげに座らされている侍女をみた。 「私の侍女よ。私の許可無く騎士が取り調べをしようとしたわ」 「わかった、もう1人置いていく。いいな」  そう言うと、王子は部屋を出ていった。外には親衛隊が2人もたっていた。  扉が閉まると、中から鍵がかけられた。 「邪魔者は排除しないとな」  なんだか分からないまま、俺は人生初の取り調べをすることになった。取り調べとか、刑事ドラマでしか見たことないのになぁ。
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