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 九月十七日。  多田から小包が届く。出勤しようと靴を履きかけた所に郵便屋がもって来た。  小さな、両手に収まりそうなくらいの箱。受け取るだけ受け取ったが、その日は忙しさに取り紛れて、結局家に帰るまで忘れていた。  一人寝の(わび)しい住まいへと帰る。喜んで迎えてくれる人や動物でもいれば、(いく)らか気分はマシになるんだろうか。いや、俺はそれを重荷だと感じるだろう。  マンションタイプ、2Kの賃貸住宅。二人で住むには狭い部屋だ。ここに住んで早四年。次に更新が来ても引っ越すつもりはない。今の給料ならもう少し広い部屋に移ることも出来る。だか、そのためにかける費用と労力のことを考えるとこのままでいいと思う。  キッチンを抜けて、リビングにしている六畳の洋室へ。ガラスの嵌まった戸を、いつも通り何の気なしにあけた。 「遅かったな」  リビングに誰かがいる。泥棒か。反射的に電灯のスイッチを探った。  電灯が灯ってもどこか薄暗いような部屋。家具もそう多くはないが、必要だと思うものはすべてそろっている。  数少ない家具の一つ、初任給で思い切って買ったオレンジ色のカウチに凭れて、調子よく片手を上げている男がいる。泥棒ではない。良く見知った、押しの強そうな顔。  多田(ただ)芳行(よしゆき)だった。
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