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「つまり?」
「本当に、私で良いの? 気を使ってない?」
「使ってない。そもそも俺がお前に気を使ったことなんて、あるか?」
「……あるじゃん」
俯いたまま、何か呟く幼馴染に、首を傾げる。
「でも、そっか。せっかく言ってくれたんだから、私もちゃんと言わなきゃ、駄目だよね」
そして、背筋を伸ばし、幼馴染は言った。
「こんな私で良ければ、よろしくお願いします」
と――
その後にどうなった、といえば、特に進展とかがあったわけでもなく、俺たちはいつも通りに過ごしていた。
時折、魔王が来ては「お前ら、いつ式を挙げるんだ」と言って、部下の魔族たちに「人間たちの挙式に貴方が出られるわけないでしょう」と返しながら、連れ戻されている。
「俺はあいつらの仲人をやるんだぁぁぁぁ!」という声が聞こえた気もしなくはないが、悪い。まだ、仲人は必要ない。
「結局、何しに来たんだろう?」
「本当、何だったんだろうな」
二人して、魔王が連れていかれた方をぼんやりと見つめる。
「……リュー君」
「何だ?」
「いや、何でもないよ」
「何だよ。気になるじゃねーか」
「本当に何も無いよ。ただ、呼んでみただけ」
もし、あれから何か変化があったとすれば、きっと俺たちの距離が少しだけ縮まったことだろうが、それでもまあ、今までとそんなに変わってはいない。
「そうか」
それでもまあ、もう少しだけ、こんなやり取りをする時間があってもいいとは思う。
「式には絶対に呼べよ!? 絶対だからな!?」
「すみません、すぐに連れていきますから!」
魔王が姿を見せたということは、途中で逃げられたのだろう。
もう半泣き状態の部下の魔族の人たちに対し、苦労してるなぁ、と思いつつ。
「……あのおっさん。そろそろ本気で締めてこようかなぁ」
「俺も一緒に行こう。で、一緒に締めよう」
幼馴染の言葉に同意しつつ、どう締めるか考える。
俺と幼馴染、時々魔王と連れ戻しに来ては申し訳なさそうな部下の魔族たち。
それが、このダンジョンでの、今の日常だ。
――とりあえず、今は部下の魔族の人たちの胃を心配しておいてやろう。
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