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「――モンスターと話せるということは、もう、普通の人間では居られない」
「は?」
「種族的には人間だけど、普通に人としては居られない。それが、このダンジョンの効果」
「そんなの、ずっとお前を見ていたから知ってる」
だが、違うと幼馴染は首を横に振る。
「ダンジョンマスターである私に与えられた効果と、外から来た人に与えられる効果は違う」
「外から来た、って……」
「冒険者とか、君のことだね。そして、君は、ここに来る頻度が多い。他ならぬ私によって」
否定はしない。するつもりはない。
「ああ、そうだな」
だって、現にこうして持ってきている訳だし。
「だから、さ。普通の人間として生きたければ、もう二度とここには来ないでほしいんだ」
「は……? いや、意味分かんねぇんだけど」
何で、一気にそこまで飛躍した?
「モンスターの声が聞こえ、この場にも容易く来られる者が、ただの人間な訳がないだろう。それも、最高難度のダンジョンに棲むモンスター相手にあっさり勝ち、信頼を得ているとなれば尚更、な」
「何が言いたい」
「単刀直入に言えば――魔族化が進んでいる、としか言えんな」
魔族化。
話は聞いたことがある。
文字通り、人間や人形生物が突然変異で魔族となることだ。
何故そうなるのかは分からないし、解明されていない。
魔物の血を取り入れたからだとか、遥か昔に魔族やその血縁者と結ばれたためにその血が表に現れたからだとかは言われているが、根拠はない。だったら何故――
「どうして、自分が魔族化なんてしかけているのか、か? そんなの簡単だろ。お前がこの娘に会いに、このダンジョンに来ているからだ。このダンジョンが外部から来る者であるお前に与えた影響こそ、魔族化させるものだったんだよ。娘はその事に今気づいたようだがな」
「……」
「だから、娘はお前にもう来るなと言ったんだ。普通の人間として過ごすためには、このダンジョンから離れ、魔族化の気を浴びないようにすれば良いだけだしな。お前に取り込まれた分も、ダンジョンに関わらなければ、自然消滅するだけだから、どうするのかはお前次第だぞ」
「んなこと、あんたに言われるまでもない」
本来なら、幼馴染が説明するはずだったことを魔王から聞かされて腹が立たない訳はなかったが、過ぎたことはもう良い。
「お前は、それで良いのか? 俺が、ダンジョンにもう二度と来なくなったら、誰がお前の食料を運んでくるんだよ」
「そんなの、どうにかする」
「どうにかって、具体的には?」
「う……」
「決まってないくせに、口に出すのは止めろ」
こいつの悪い癖だ。
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