大魔導士の未練

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夏は嫌いだ。 とにかく暑いし、湿度も高い。そのせいで夜は眠れないし、汗疹もできる。 おまけに蚊だのセミだのと虫もいっぱい出てくる。 それに、夏には良い思い出がない…。 「英雄、いつまで寝てるんだい。いくら夏休みだからって、もう12時だよ」 「う~ん」 4月から東京で1人暮らしを始めた僕は、夏休み、4か月振りに実家に帰った。 東京にいてもやることがないので食費を節約するために帰ってきたのだが、 ここでは東京以上にやることがないので、日がな一日寝て過ごしている。 そんな状態が1週間も続くと、母の扱いもさすがに邪険になってきた。 「部屋に入るなって言うなら、片づけくらいしてよね」 「はいはい」 小言を聞くのも嫌だったので、ご飯を食べたら、すぐに自分の部屋に戻った。 「誰に見せるわけでもないのに、片付けろって言われてもねぇ…」 部屋を見渡してから、申し訳程度に、 机の周りに積まれていた高校時代の参考書や古い雑誌をまとめて 部屋の外に移動していると、机の下に埃にまみれたゲーム機が落ちていた。 裏にはマジックで「英雄」と名前が書かれていて、 昔はまったRPGゲームのソフトが入れっぱなしになっている。 「超懐かしい…」 確かここに…そう思って、机の一番下の引き出しを漁ってみると、思った通り充電器もあった。 良い暇つぶしをみつけた。僕は早速ゲーム機をコンセントにつないだまま、電源を入れた。 画面にゲームタイトルが映し出されると、懐かしのBGMが流れ、 小学生時代にタイムスリップしたような錯覚に襲われる。
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