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「コルデリア・ド・ラ・モランシー。貴女との婚約を解消する」
学園の卒業パーティーに、ジュリアン第一王子の声が響いた。
「親から押し付けられた婚約なんて、ナンセンスだ。僕は、愛に生きることにした。僕は、エリザベーヌと結婚する」
彼の胸には、男爵令嬢のエリザベーヌが、うっとりとした顔をして、縋り付いている。
「どうぞどうぞ」
むしろほっとしてわたしは答えた。これで、王妃という厄介な地位をおしつけられることはなくなったわけだ。
「でも、モランシー公国との防衛協定は守って下さいね」
それだけが、わが父、モランシー公爵が、わたしに託した望みだった。辺境の領邦、モランシー公国は、大国ロタリンギアの保護がなければ、周辺諸国に分割され、跡形もなく消えてしまうだろう。
ジュリアン王子が鼻を鳴らした。知能の低い生き物を見る目で、わたしを見つめている。
「今、言ったろ。僕は、愛に生きるんだ。婚約絡みの防衛協定は、白紙に戻す。協定を継続したいのなら、純粋に外交ルートを使うことだな」
そんなことを言ったって、普通のルートで、モランシーのような領邦を、ロタリンギアのような大国が相手にしてくれるわけがない。
「それは困りましたわ」
わたしは途方に暮れた。
……「絶対、王太子ジュリアン殿下を手放すな」
これが、父からの厳命だった。
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