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「別に、殿下に未練があるわけじゃございませんことよ。ただ、貴方が約束を破ったから。国と国との約束を。そこのところ、誤解なきよう」
オウム先生の抜き打ちテストには落第ばかりだったけど、この大切な晴れ舞台(?)では、奇跡的に、噛まずに、唱えることができた。わたしは、実践には強いのだ。
ごめんなさい。一ヶ所だけ、言い間違えたわ。「ei」の発音を、正しくは「アイ」なのだけれど、「イーッ」って、言っちゃったの。ちょうど子どもが悪態をつくような感じで、歯茎を剥きだして、「イーッ」って感じ?
だって、そう読めるんだから、仕方がないわ。練習の時も、よくここを間違えて、オウムに、頭をつつかれたものよ。
でも、大丈夫。ここにうるさいオウムはいない。誰にもわかりゃしないわ。
呪文を唱え終わった途端、嵐のような波動が、わたしの全身から放たれた。周囲が歪み、ごうごうと熱い風が吹き抜ける。不気味な熱波は、龍の形となって、鎌首を擡げた。
「あら? あらあらあら?」
ちょっと、お父様。これ、何? 何の呪文かしら。
そういえば、呪文を覚えるのに精いっぱいで、肝心のそこのところを聞いていなかったっけ。
熱波で形作られた竜が、かっと口を開いた。
「うわあーーーーーっ!」
ジュリアンの悲鳴が、ダンスホールに響き渡った。
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