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「それなのに、コルデリア。お前は、いったいどこをどう、言い間違えて……」
父は声を詰まらせた。
心当たりならある。「アイ」と「イーッ」だ。
「きっと、オウムが教え間違ったんですわ」
そ知らぬ顔で、わたしは答えた。これも、父の為を思っての、優しい嘘だ。ここで娘のミスを知ったら、あまりの不甲斐なさに、父はさらに怒り狂うだろう。脳の血管でも詰まらせたら、大変だ。
「うぬ。オウムめ」
ぎりぎりと父は歯ぎしりした。
「さっそく鍋にして食ってやるわ」
「わたしは、遠慮しておきますわ」
オウムは、毎度毎度、間違いを指摘してくれた。本来なら、鍋にされるのは、わたしの方なのだ。危ない、危ない。
「ロタリンギア王は、さぞやお怒りであろう。大切な第一王子を、あのような姿にされてしまって……」
父は喉を詰まらせた。
「もしや、仕返しに、わが領邦へ攻め入って来るやもしれぬ」
「ジュリアン殿下は、モランシーとの防衛協定は白紙に戻すって、おっしゃってましたわ」
「ああ!」
父は頭を抱えた。
「婚約が破棄された以上、それは覚悟していた。しかし、まさか、ジュリアン殿下をあのようにしてしまうとは! 全くお前は、なんということをしてくれたんだ」
王座から殆ど崩れ落ちそうになった父は、寸前で、足を踏ん張った。
「絶望している場合ではない。全軍配備! ロタリンギアからの攻撃に備えるのだ。たとえ最後の一兵卒となろうとも、モランシーを守り抜け!」
「お父様。それは、無理なんじゃ……国力が違いすぎますわ!」
「うるさい! 誰のせいだと思っておるのだ! お前が、呪文を言い間違えたせいだぞ!」
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