婚約破棄

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◇ ロタリンギア王国宮殿。 豪華な執務室の中を、ロタリンギア王が、行ったり来たりしている。やがて立ち止まり、深いため息を吐いた。 「ジュリアンをここへ呼べ」 侍従に連れられて、部屋に入ってきた息子を見て、王の憂愁の色は、一層、深くなった。王の前に跪いた侍従は、左手を前に出した。次いで右手をその上に被せて蓋をした。 「わかっておるな、ジュリアン」 侍従の手の中に向かって、王は話しかけた。 「今のお前では、王位継承は不可能だ。幸い、(ちん)には、腐るほど子がおる。お前を廃嫡し、次男のアルフレッドを、後嗣とすることにする」 侍従の手の中から、小さなうめき声がした。幽かな声を聞きとる為に、畏れ多くも王は、侍従に向かい、身を屈めた。 「もちろん、お前とエリザベーヌの婚姻は認める。貴賤婚であることを考えれば、格段の温情と心得よ。さらに、ヴェルレに領邦を与える。お前は今日から、ヴェルレ公を名乗るがよい」 国土を減らさないために、王族は、領土を持つ令嬢としか結婚を許されていない。貧乏な男爵令嬢のエリザベーヌには、継承できる領土がなかった。ゆえに、彼女との結婚は「貴賤婚」であり、父王を始め、宰相、大貴族たちも、反対していた。 だが、王子ジュリアンの決意は変わらなかった。彼は、純粋な愛に生きると宣言し、愛するエリザベーヌを守る為に、父と真っ向から戦う決意を見せていた。 父の王には、実に頭の痛い課題だった。 しかし、弟に王位を継がせるとしたら、第一王子を廃されたジュリアンが、王族という身分にこだわる必要はない。いわば、王族という身分と引き換えに、ジュリアンは、エリザベーヌとの結婚が許されたことになる。
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