初恋ひとひら、君ひとひら。

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 多分五歳とか、そこらへんの年だったと思う。ある日、迎えに来てくれた兄貴が、一人じゃなかった。高校生になったばかりの兄貴の横に、見知らぬ女が一人くっついてたんだ。クラスメートだと、そう言ってた。ショートヘアーの、兄貴と違ってちょっと活発そうな長身の女だ。 『あ、初めましてナツメちゃん。私、ミズホっていうの。高野君とは同じクラスでね……』 『やだっ!』  女のカンってすごいのな。本能的に思ったんだ、こいつは敵だって。何も、悪口言われたり、叩かれたわけでもない。でも、こいつはきっと私の大好きな兄貴を、どこか遠くに持って行っちゃう存在だって思ったんだよな。だから拒絶した。兄貴の腕を引っ張って、べーっと舌を出したんだ。 『にーにに近づかないで!にーにはナツメのなんだから!!』  いやほんと、可愛くないガキだったと自分でも思う。ミズホってお姉さんは、めっちゃくちゃ困ってた。兄貴のことも困らせてた。でも当時の私はそんなこと考える余地もなくて、とにかく私と兄貴だけの特別な世界に異物が入り込んだから排除しなくちゃとか、それしか考えることができなかったんだよなあ。  ミズホさんにも間違いなく嫌な思いをさせたと思う。話しかけてきた様子からしても、小さな子どもが嫌いな人じゃなかったと思うんだよな。むしろ、私に拒絶されても最初はちょっと呆れて、嫉妬してるんだね、なんて笑ってたくらい。  でも私の決意は、お姉さんが思うよりずっと硬かったんだよな。  彼女と兄貴がお付き合いしてるのは、薄々察してた。じゃなきゃ毎日のように一緒に家に帰ったりしないし、一緒に私のお迎えに来たりもしないだろうし。そして、そのたびに、私はお姉さんを拒絶した。きっと酷いことも言ったんだと思う。お姉さんは次第に苦笑もできなくなって、ちょっとさみしそうな顔して落ち込むようになった。私のことを責めたりはしなかったけど、“どうすれば仲良くなれるのかなあ”とかぼやいていたのはよく覚えてる。  私はといえば。拒絶しても拒絶しても、兄貴と一緒にいることをやめないお姉さんをなんとか排除しようと躍起になってたんだよね。  だから、ある日、保育園にトラップをしかけようと画策したわけ。保育園の入口に、教室から持ち出したカラーテープを張って、お姉さんをすっころばせようとしたんだ。まあ、五歳児が考えるトラップなんて所詮その程度のもん。それでお姉さんが転んで恥をかけば、もうきっと保育園に近づかなくなるし、そうなったら兄貴と一緒にお迎えに来ることもなくなるはずだと信じて疑わなかったんだ。  で。
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