初恋ひとひら、君ひとひら。

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 まあなんとなく予想がつくと思うんだけど、このトラップには致命的な欠点が一つある。ようするに、引っかかる人間を選べないってこと。私は馬鹿だったから、それにちっとも気づけなかった。兄貴とお姉さんが迎えに来るよりも前に、保育園に園児を迎えに来た別のお父さんと子どもがひっかかっちゃったんだ。二人とも大したことなかったけど、三歳の息子の方は見事にすってんころりんして膝をすりむいて大泣き。誰がこんな悪戯したんだ、って大騒ぎになっちゃってさ。  ナツメちゃんがやってたの見た、って誰か園児が保育士の先生に言ったんだろうな。  保育士の先生に呼ばれた私は、お説教を受けることになったんだ。  どうしてこんなことをしたのか?その男の先生に問われた私は、泣きべそをかきながら正直に白状した。この時はまだ、自分が悪いことをしたと思ってなかったからだ。自分はただ、兄貴に近づく悪い虫を排除しようとしただけ。たまたま他の親子が引っかかっただけ。その親子は気の毒だけど、それでも自分は悪くない、この方法が失敗したなら他のやり方を考えないといけないとさえ思ってたんだ。  その保育士の先生は、ユキト先生って呼ばれてた。他の女の先生と比べてもダントツで若くて、優しい顔の眼鏡をかけた先生。今でもよく覚えてる。彼は私の目線に合わせてしゃがみこむと、こう言ったんだ。 『ナツメちゃんの気持ちはよくわかったよ。……ナツメちゃんが、自分なりに正しいと思ったことをやったってことも。でもね、お兄さんとミズホさんって人を引き離そうとしたことと……今回怪我をしちゃった子とお父さんはまったく関係ない。二人はまったく悪くない、ということはわかるね?だからまず、ナツメちゃんにどんな正義があったとしても、彼等には謝らないといけないよね?』 『でも、でも、ナツメはっ……』 『先生から、お父さんお母さんから、そして大好きなお兄さんから教わったことはないかい?……もしナツメちゃんが、怪我をしちゃった男の子の立場だったらどう思うだろう。突然トラップにひっかけられて、怪我をして。それで相手の女の子が、謝りもしてくれなかったらどうかな?怒らないかな?』 『……おこる』 『そうだよね?』 『でも!ナツメ、ミズホおねえさんには謝らないから!』  親子に謝罪しないといけないことは、無理やり自分を納得させた。それでも私にとって最優先だったのは、あのミズホさんという敵を兄貴から引き離すことに他ならない。そんな自分の正義を、押し通すことに必死になってたんだよな。  人に怪我をしたのに、そんな自己弁護ばかり。ひっぱたかれても仕方なかったと思う。でも、ユキト先生は怒らなかった。私の頭をぽんぽんして告げたんだ。
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