初恋ひとひら、君ひとひら。

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『僕は、ナツメちゃんのお兄さんの気持ちがわかるだなんて言えない。でも、いつも一緒にいるということは、きっとナツメちゃんのお兄さんにとって、ミズホさんという人はとっても大切な人なんだと思うんだ。大切な人の悪口を言われたら、誰だって悲しいし傷つくよ。ナツメちゃんはもし、お兄さんが悪口を言われたり、みんなに石を投げられてたらどう思う?』  相手の気持ちを考える。それが、対人コミュニケーションの基本中の基本。その一番大切なことを、ちゃんと教えてくれようとする先生だったんだろう。  私は俯いて、かなしい、と答えた。 『……そんなのやだ。つらい。助けたい』 『そうだろう?……もし、ナツメちゃんがお兄さんのことを本当に愛しているなら。そのお兄さんが大切に思う人に、酷いことを言ってはいけないんだ。お兄さんは何も言わなかったかもしれないけれど、ナツメちゃんがミズホさんの悪口を言っているのを見てきっと悲しかったと思うよ。例え、お兄さんが大切な人を増やしても、ナツメちゃんが大事ではなくなるなんてことはないんだ。だから、お兄さんの大切な人を、無理やり追い出そうなんてしちゃいけないんだよ。それは、わかるかい?』 『……うん』 『じゃあ、ミズホさんだけじゃなくて……お兄さんにも、ちゃんと謝った方がいいのはわかるよね?ミズホちゃんは、お兄さんに嫌われたくないだろう?』 『…………うんっ……』  兄貴に嫌われる。それは、想像するだけで世界が真っ暗になるほど恐ろしいことだった。それだけは絶対嫌だ。私はあの親子に謝り、そして兄貴と、まだ忌々しい気持ちはあったけれどミズホさんにも謝った。  その時、兄貴が言った言葉を、今でもよく覚えてるよ。 『ナツメが、俺のことを大事に想ってくれてうれしいよ。でもきっと、ナツメにもいずれ、俺より大事な人ができる。……いつか、ナツメの大事な人を、俺に見せてくれよな。俺がついつい嫉妬するくらいの、素敵な人をさ』  今だから、あの言葉の意味も、残酷さもよくわかるってなもんだ。  私はあくまで妹で、それは何より尊いことで、でも同じだけそれ以上のものにはなれないってことで。  私の初恋は、ゆっくりとその花を散らしたってわけだ。――兄貴と手をつなぐのを控えるようになったのも、それからのことだったんじゃないかな。なんとなく悟っちまったんだろうな、その場所はもう、私の専売特許じゃないってこと。
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