プロローグ:回顧

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プロローグ:回顧

「これっ、貰ってくれるかな?」 「これは?なに?」 紙袋を覗くと画用紙より一回り大きめの厚い段ボールで丁寧に梱包された物が入っていた。 「うん。昨年の・・・・ その・・・・」 少年は紙袋の中身を伝えることを躊躇(ためら)う。 「昨年のなに? 開けてみてもいい?」 断りを入れてからガサガサと厚い段ボールを縛っている紐をほどいた。 「これって、 これから必要なんじゃないの? 全国コンクールに出すって 聞いたけど・・・・」 白い額に収められた人物画が顔を覗かせた。 「うん、いいんだ。 元々、書きあがったら華ちゃんに 渡そうと思ってたんだ。 だから・・・・貰ってくれる?」 「でも、先生は知ってるの? 全国コンクールに出すんでしょう? 全校集会で校長先生も 言ってたじゃない? 貰えないよ」 手渡された紙袋ごと、目の前にいる少年に返そうと手を伸ばした。 「いいんだよっ! 華ちゃんに貰って欲しいんだっ! もう、会えないじゃない! 華ちゃん、引越するから 会えないじゃない! だからっ!持ってて!」 ぐいっ! 少年は紙袋を強引に手渡すと全速力で走り去った。 「・・・・ん・・・・任・・・・ 主任っ!神崎さんっ! 聞いてますか?」 ハッ! 机の上に並べられた一枚の日本画の作品写真に目が留まり、遠い記憶の中を彷徨(さまよ)っていた。 (しまった。打合せ中だった) 慌てて隣で作品の配列を確認する同僚の顔を見る。 「ごめんなさい。少しぼんやりしました」 机を挟んで座るオーナーにお詫びをする。 「とんでもないわ。 こちらこそ、付き合わせてしまって ごめんなさいね。 手にしていらっしゃる写真の作品が 神崎さんのお好みかしら?」 オーナーがにこやかに問いかける。 「そうですね。 日本画は好きです。 陽の光が優しく感じられて・・・・」 柔らかな陽の光が射し込む窓辺を背景にキャンパスへ真剣な眼差しを向ける少し赤みのある緩やかな巻き毛の女性が描かれた日本画の作品写真に再び目を落とした。 作品タイトルは『君へ』 作者は『高階和也』 「神崎さんにお会いした時、 はじめての感じがしなかったの。 どこかでお会いした事が ある気がしていたのよ。 この作品の女性に似ていたのだと 後から気が付いたわ」 オーナーは上品な微笑みを向ける。 オーナーの言葉に同僚がどれ?と手にする作品写真を覗きこんだ。
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