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私と佐藤は、アフタヌーンティトレイに盛られた料理を全て平らげる。
レジに向かうとオーナーが既に会計を済ませて下さっていた。
(かえって、気を使わせてしまった)
その場でオーナーに御礼のメッセージを送った。
店を出たホールでエレベーターを待つ。
佐藤は珍しくもじもじと言葉を探している様子だった。
「佐藤さん、
私の事は何を言っても構わないけれど、
お客様であるオーナーと
お客様が大切にしていらっしゃる方の
評判が落ちる事だけは避けてね。
お願い」
じっと佐藤の眼を見つめる。
「解ってますよ。
何年、神崎さんと一緒に
仕事していると思っているんですか?
信用ないなぁ~。
これでも僕、神崎さんの右腕だと
思っているんですよ」
「えっ?そうだったの?知らなかった」
そうなのだ。佐藤の感の良さとコミュニケーション能力は私よりもはるかに上だと思っている。
そして、調子のよい割には口が堅い。
素直に佐藤に礼を言う。
「ありがとう。
いつも頼りにしていますよ」
ニコリと微笑み扉が開いたエレベーターに乗り込もうとした。
「待ってっ!待ってっ!
神崎さんっ!」
名前を呼ばれて私と佐藤は勢いよく振り返る。
高階さんが息を切らして駆け寄ってきた。
バンッ!
エレベーターの扉に手を置いて、扉が閉じるのを制する。
「あぁ、よかった。間に合った」
ふうふうと息を切らして一瞬下した顔を上げる。
「神崎さん、
少し、話しがしたいです。
時間取って頂けませんか?
あっ、連絡先、教えて頂けますか?
先程は給仕中で名刺交換できなかったから」
こちらもうっかりしていた。
ギャラリーのディレクターを依頼したとオーナーから紹介されたのだからこちらから名刺をお渡しするのが筋だ。
「大変失礼を致しました。
打合せ中ですと電話には出られないので、
ご連絡はメールで頂けると助かります。
佐藤さんも名刺をお渡ししておいて」
あくまでも仕事上でのやり取りだと釘を刺すかのように佐藤の名刺も受け取らせた。
「ありがとうございます。
僕の名刺です」
名刺はギャラリーのアートディレクターとなっていた。
「お引き留めして
申し訳ありませんでした。
明後日、よろしくお願い致します」
エレベーターの内と外で名刺交換を終える。
私と佐藤の名刺を握り、高階さんはエレベーターの扉が閉まるまで見送ってくれた。
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