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エピローグ:あのころの君へ
テナントビルとオフィスビルが立ち並ぶエリアの一角にオーナーの長年の夢のギャラリーがオープンした。
オープンから一ヶ月に渡りレセプションが開かれた。
レセプションに一ヶ月を掛けたのは、ギャラリーの目的である若手作家支援の作品を少人数でゆっくり鑑賞し、作者と作品を認知して頂くことが狙いだった。
オーナーが選りすぐった108点の作品はほぼ全て売約済のプレートが貼られた。
レセプションの一ヶ月間は佐藤と交代で毎日立会に入った。
レセプション最終日は、翌日に行う売約済の作品の梱包手配と次の展示作品の配置確認をするため2人で立会に入った。
閉店間際、オーナーが嬉しそうにギャラリーに展示されている作品を一点づつ見て回っていた。
「オーナー
ほとんど全ての作品に
売約のプレートが
貼られて嬉しいですね」
オーナーは満面の笑みを向ける。
「そうなの。
本当に夢の様だわ。
今は、オープンしたばかりだから
皆さんのご厚意だと思うのだけれど、
それでも嬉しいわ」
「オーナー、
そう言えば高階さんのあの作品は
オーナーが購入されたそうですね。
僕がもう少し稼ぎがよかったら
僕が欲しかったのに」
「あらっ、佐藤さんも高階さんの
あちらの作品の虜になったの?
あなたの近くにはご本人が
いらっしゃるじゃないの」
「いやいやぁ~、
ご本人ではなくあの作品の
子がいいんですよ」
「そうらしいわよ。
神崎さん。
2人でギャラリーに華を
添えてもらわなくてはね」
オーナーも佐藤も優しく微笑む。
「でも、驚きましたよ。
オープンまでの2週間で描き上げるって、
高階さんの執念ですよね」
いつの間にか4人になったギャラリーで佐藤が高階の顔をまじまじと見る。
「執念ですか・・・・
執念かもしれませんね。
あのころに後悔した事を
取り戻したかったのかもしれません。
ずっと、そう願ってきましたから」
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