エピローグ:あのころの君へ

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カフェで再会した翌日。私は小学校6年生の夏休みに手渡された白い額におさめられた人物画を実家で探し出し、オーナーに事情と共に手渡した。 展示予定だった『君へ』の作品はスペースだけをそのままに設置はされなかった。 そして、ディレクターの高階さんはオープンまでの2週間は休むとオーナーから告げられた。 オープンの前日、最終確認の日、高階さんは作品を手にギャラリーに姿を現した。 丁寧に梱包された箱から作品を取り出す。 水絵の具で描かれた人物画『君へ』が新たな作品の隣に設置された。 全く同じ構図の水絵の具で描かれた少女と日本画で描かれた少女の作品だった。 「私もずっと後悔をしていました。 言えなかったありがとうの言葉、 周りの眼を気にして 避けてしまった罪悪感、 そして・・・・」 高階さんの顔を見る。 「そして、素直になれなかった心残り、 やっと自分自身に決着がつけられました。 高階さん、あのころの私から 御礼とお詫びを言わせて下さい。 描いて下さってありがとう。 一緒に遊んでくれてありがとう。 最優秀賞を一緒に喜ぶことが できなくてごめんなさい」 すっと、胸が軽くなった気がした。 「僕もです。華ちゃん。 華ちゃんを描いたから 僕は日本画の世界に進む事ができた。 あのころの華ちゃんがいなかったら 今の僕はありません。 あのころの華ちゃんにありがとう。 あのころの華ちゃんを描いた 水絵の具の作品を 大切に持っていてくれてありがとう」 お互いに子供の頃のわだかまりと後悔がほどけた気がした。 4人で作品の前に立つ。 作品タイトル『あのころの君へ』 作者『高階和也』 売約済
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