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「リデルさん、17歳のお誕生日おめでとうございます」
「え?」
楓葉亭の看板娘のメルちゃんから祝福の言葉をもらって、朝食のために食堂に降りてきた俺は今日が自分の誕生日であることに気付いた。
「ああ、そうか。今日って3の中月16日なんだ。すっかり忘れてたよ。メルちゃん、覚えててくれたんだ」
「そりゃあ、忘れませんよ。大事な日ですもの」
メルちゃんは両手で握りこぶしを作って断言する。
相変わらず可愛いなぁ。
けど、心なしか顔が赤いのは熱でもあるんだろうか。
メルちゃんは俺より一つ年上の17歳で……いや、今は同い年になったんだっけ。
俺とクレイがこの街の定宿としている楓葉亭の一人娘さんだ。
いつも仏頂面で目付きの悪い主人であるおじさんとは違い、愛想が良くて可愛らしいので、この辺でも評判の看板娘と聞いている。
母親譲りの綺麗な赤髪を肩口まで伸ばし、気の強そうな瞳が目を引く美人さんだ。
何かと俺の世話を焼いてお姉さん風を吹かすのが、ちょっと気に入らないけど。
それに彼女の目的はわかってる。
「あれ、今日はクレイさんは、一緒じゃないんですか?」
ほら来た。
俺に近づいてくる女性のお目当ては、ほとんどがクレイと言っていい。
奴のカッコ良さは男の俺でも見惚れることがあるので、わからないでもない。
けど、俺をダシに使うのは勘弁してほしい。
「クレイなら、何か用事があるとかで朝から出て行ったよ」
「そうなんですね……それじゃ、今日は朝食一緒に食べませんか? 誕生日祝いに私が奢りますから」
「えっ、奢ってくれるの? それなら……」
「メル! 油売ってんじゃないぞ。そんな時間があれば厨房を手伝ってくてれ」
奢りに釣られそうになっていたら、おじさんが顔を出してメルちゃんに文句を言った。
「えええっ――! いいじゃない、このくらい。珍しく一人なんだからぁ」
「小遣い減らすぞ……」
「ひぃ、わかった、すぐ戻るから。ごめんなさい、リデルさん。今の話は無しで……」
「……うん、いいよ。気にしてないから」
「じゃあ、朝食はいつものでいいですよね」
「それで、お願い」
いつも元気なメルちゃんは、俺の注文を聞くとウインクしながら厨房に戻って行った。
「リデルくん……」
メルちゃんを目で追っていると、厨房から顔を出したままのおじさんが俺に声をかける。
「ん、どうしたの、おじさん? 宿代はまだ足りてるよね」
「そいつは大丈夫だ。そうじゃなくて……」
いつもは短いがはっきり物を言うおじさんが珍しく口ごもる。
「リデルくん、あんたが良い青年だってことは、俺もよくわかってる。けど、メルはあんたにはやれねえ。あいつじゃ、あんたの人生に付いていけると思えねえんだ。だから、諦めてくれ」
「は?」
「そんだけだ」
言うことだけ言うと、おじさんは奧へと引っ込んだ。
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