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◇◆◇◆
「はははっ……そりゃ災難だったな」
朝の顛末を帰ってきたクレイに報告すると、奴は腹を抱えて笑った。
「わ、笑うことないじゃないか」
「いや、ごめん、ごめん」
俺が憮然としていると、クレイは笑いながら謝る。
「大体、クレイがモテ過ぎるのが悪いんだぞ。おかげで俺まで、とばっちりを受けたじゃないか」
「とばっちり?」
「そうだよ。おじさんの心配は本来ならクレイに言うべきことで俺に言うのはお門違いもいいとこだよ」
「……お前、本気で言ってる?」
「ん? そうだけど」
俺が返答するとクレイは盛大にため息を付いた。
何でだ?
俺が何か間違ったことでも言ったのだろうか。
「それより、リデル。ほら、これをお前にやるよ」
俺が疑問符を頭に浮かべていると、クレイが懐から大事そうに包み紙を取り出す。
「何だ、これ?」
「開けてみろよ」
いたずらが成功するのを心待ちにする少年のような表情をするクレイに嫌な予感を覚えながら包みを開く。
「な……」
俺は手に取ったモノに呆気に取られる。
「お前…………」
「ん?」
「やっぱり馬鹿だろ!」
俺は贈り物を持つ手の反対の手でクレイをぶん殴る。
「何で怒ってるんだ?」
俺のパンチを片手で軽く受け止めるとクレイは不思議そうに言った。
「怒るに決まってるじゃないか!」
クレイが俺に贈ったモノは、何と指輪だったのだ。
「どうして、俺が男から指輪なんかもらわなくちゃいけないんだ?」
「ええ、いいじゃん。絶対、似合うと思うぞ」
「似合う、似合わないの問題じゃない!」
俺がぷんぷん怒っているとクレイが残念そうに指輪を見つめる。
「かなり良い物なんだぜ、それ。魔力付与も付いていて、装着しているとダメージが軽減されるっていう優れものなのに……」
な、なんですと。
そんなおいしい機能がついているのか。
だが、しかし……。
「要らないんだな、リデル……」
クレイが念を押すように聞いてくる。
「ぐぐぐっ……」
「せっかくの誕生日プレゼントなのになぁ」
ちらりと横目で俺を見る。
「い……要らないもんは要らない」
俺は断固拒否した。
「そうか……」
俺の拒絶にクレイが元気を失くしたように見えた。
「ごめん、クレイ。せっかく用意してくれたのに断って……」
「いや、確かに俺も悪ふざけが過ぎた。お前がそういう冗談が嫌いだってわかってたのにな」
「ごめん……」
クレイが俺のことを思って贈ってくれたのは、よくわかっている。
俊敏さが売りの俺は防具がどうしても軽装になるのは仕方がない。
だから、攻撃が当たるとダメージが大きいのだ。
それをカバーするための魔法の指輪だというのは理解出来る。
けど、指輪はダメだ。
何故か、そう思ってしまった。
よくわからないけど、今はその時じゃないって強く感じたのだ。
どうしてだろう?
「そうか……指輪が駄目となると、誕生日プレゼントがなぁ」
クレイが少し困ったような顔になる。
「それなら、クレイ。俺からお願いがあるんだ」
「お願い? まあ、今日はお前の誕生日だからな。出来ることなら、何でも聞いてやるよ」
「じゃあ、言うね」
……そう、しばらく前からずっと考えていたのだ。
エクシーヌ公女のために俺は強くならなくちゃならない。
そのための近道は、たった一つしかなかった。
「親父が教えてくれた『聖石』を見つけて『世界最強の男』になりたいんだ。だから、俺に力を貸してくれ、クレイ……」
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