リデルの憂鬱

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◇◆◇◆ 「おい、クレイ。オレをいったいどこに連れてくんだよ」  解決してやると大見得おおみえを切ったクレイは「ちょっと俺に付いて来てくれ」と言うとオレを部屋から連れ出した。 「なあ、付いていけば本当にみんながオレに距離を置いてる理由が分かるんだろうな?」 「まあ、そんなところだ」 「適当だな……ホントに大丈夫か?」  オレの心配をよそにクレイは先に立ってどんどん歩いて行く。 「おい、ちょっと待て。こっちは不味い、勝手に入ると怒られるんだからな」  この奥はレリオネラ太皇太后お祖母さまの住んでいる区画なのだ。会う前に先触れを出して、向こうの予定を聞いた上で訪れるのが通例だ。皇族は家族であっても、みだりに会ったりできないしきたりとなっているようなのだ。もちろん、アリシア大好きお祖母様はいつ来てもいいと言ってはくれているけど、作法は作法だ。守らなくてはいけない。  クレイはオレの制止も聞かず、前へと進む。そして、ある部屋の前まで来ると立ち止まった。 「ん、ここは?」  確か、来賓が来た時に会食するための貴賓室のはずだけど。 「リデル……ここに、ちょっと入ってみてくれ」 「な……何言ってんだ。勝手に入ったら怒られるって……」 「大丈夫だ、俺が責任を持つ……それとも怖いのか?」 「こ、怖くなんてないさ。けど、お前が罰せられるのは嫌だ」 「大丈夫だ、俺を信じろ」 「……ったく、怒られたらお前が謝れよ」 「もちろんさ。さあ……」  クレイに促されて扉の前に立つ。扉の向こうの様子を窺うが何も聞こえない。ええい、どうにでもなれ……オレは意を決して勢いよく扉を開けた。  と、そのとたん、たくさんの人の歓声が耳に届く。 「アリシア様、お誕生日おめでとうございます!」 「皇女殿下、おめでとうございます!」 「えっ?」  驚いてクレイに振り向くと奴は笑いながら言った。 「リデル、19歳の誕生日、おめでとう」  そうだった、今日はオレの誕生日だった。すっかり忘れてたけど。  呆気に取られて貴賓室に目を向けるとシンシアやソフィア、ユク達が心から嬉しそうにオレを祝ってくれている。中央には満面の笑みのお祖母様もいる。  そうか、みんなオレに隠れて準備してくれていたのか。余所余所しさの正体はこれだったんだ。嫌われていないとわかってオレは心底ほっとする。  くそぉ、クレイの奴ももグルだったんだな。 「さあ、リデル。みんなが待ってる。中に入ろうぜ」 「なあ、クレイ」 「ん、何だ?」 「やっぱり、お前嘘つきじゃないか」 「お、バレた?」 「全くもう……」  オレは顔が綻ぶのを隠しきれず、みんなの待つ祝宴に向かった。
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