side   愛 生

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side   愛 生

「…こりゃまたスゲェ美人」 「アイドル級じゃないですか?」 「人事部長にブラボーだ!」 悠未(ゆうみ)が入室した途端 むさ苦しい経理部の空気が 華やかで甘い風に一変した。 新入社員は二十二歳の小顔美人、 会社員になったことすら不似合いな 洒落たミュールが光り、 広い胸元のブラウスの肌はきめ細か。 笑い顔を隠す指先が、 今まで見たどんな綺麗な女性より (華奢で美しい…) 愛生(あき)は思った。 「よろしくおねがいしますぅ」 “す”の後に、長々と 甘い余韻が一面漂う。 わずか五年しか変わらぬ愛生は 朝から化粧直しもせずにいる自分が 恥ずかしくて堪らなかった。 そればかりか、少し色黒の 陸上部出身と一聞きで 納得されてしまう ガッチリした骨格を 今すぐ消したい気がして 無意識に身体を縮めたくらい。 それと同時に気になったのは 隣の席の朔也(さくや)の様子…。 けれども、朔也、飯島朔也は パソコンから目を離すでもない。 ほっと安堵する愛生。 なぜなら彼は、特別容姿も優れない なんの取り柄もない自分を 結婚相手に選んでくれた 大切な大切な恋人だから…。
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