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☆
僕は学校へ行くためにバスに乗っていた。
手元にある液晶を適当にもてあそびながら、昨日けんかした恋人のことを思い出して憂鬱な気分になる。
次の停車駅がアナウンスされると、すぐにバス内にピンポーンと軽快な音が響いた。どうやら僕の前の席のおばあちゃんが降りるようだ。
バスが停車し、数人が降りていく。僕は窓の外をぼんやりと眺めていた。バスの扉が閉まる。けれど、正面の信号が赤に変わったためバスは依然停車したまま。窓から、先程バスを降りたおばあちゃんが見えた。
腰が曲がっていて歩くスピードは驚くほどゆっくりだ。なぜか、そのおばあちゃんは誰もが憂鬱になる今にも雨が降り出しそうな空模様にそぐわず、少女のように無邪気な笑みを浮かべていた。
僕は首をかしげる。そのおばあちゃんはなぜか色褪せたボロボロの花柄の傘を大切そうに持っていたから。よく見ると錆びていて、穴まで開いているようだ。どうしてわざわざあんな傘を……?
信号が、青に変わった。
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