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陽の光が降り注ぐなか、さらさらと水路を流れる冷たい水に俺は手を浸していた。
……冷たい。
呟いた声は自分の記憶より少し高い。
どうしてこうなったのかを思い出そうとすると、少しだけ頭に痛みが走った。
目を閉じて痛みが軽くなるまで待ちながら水に浸した手をゆらゆらと揺らして光を弾く。
時折、水路をゆったりと泳ぐ魚の背中が指先に触れていった。
あぁ、この世界は『空と水の交わる場所』にそっくりなのだと思い出した。
空と水の交わる場所。
マイナーなオンラインゲームで、このご時世で珍しい事にほぼ課金はなし。
最近流行りの剣と魔法の世界だが、やればやり込んだだけ自分の好みを反映できる。
それは国造りだったりキャラ造りだったり。
プレイヤーが何を特化したいのかが顕著に現れるゲームで、色々と個人的な事情からゲームができる時間が充分にあった俺はのめり込むようにして国作りをしていた。
☆☆☆☆☆☆☆
そっくり?何が。
ずきんと痛む頭。
自分で思い出した言葉に自分で否定する。
ゆっくりと頭を振ってからこめかみの辺りに手を添えて立ち上がると、さらりと長い水色の癖の無い髪が光を弾いて揺れた。
『俺は誰?』
「セラ様、こんなところにいらしたのですか?お風邪を召しますといけませんので、お部屋に」
「大丈夫、少し考えたいことがあったから、ありがとう戻るね?」
かけられた声に飛び上がりそうになりながら、するりと違う言葉が出てきたことに、自分を誉めてやりたい。
今、頭の中ではなぜだかふたり分の記憶が混ざっている。
水から手を上げると、寝そべっていた石畳から身体を起こして服についた草を軽く掌で払う。
「部屋に戻ります」
そう伝えると、呼びに来た青年は、そっと頭を下げた。
見上げた先には石で組まれた巨大な建物。
王国ファレナスの第3王女セラフィリーア。
それが俺が作った世界と俺のアバターだった。
別に俺に女装癖があるわけじゃない。
ただ、好みのパーツを組み合わせたら女性アバターがしっくりときただけ。
水色の腰まで届くストレートの髪
ぱっちりとした濃い青の瞳
白い肌
赤くふくよかな唇
すらりとした手足
豊かな‥‥‥え。
思い出すようになぞった身体だったが、見下ろした胸はすとんとしていて。
ない、ない、ない!?
確かに俺が作ったセラフィリーアは細いけれど、出るところはしっかり出ている我儘ボディにしたはずだ。
それが無い。
え、俺、女の子だよね?
あれ、女の子って?
性別……
性別って?
ゲームには男女のアバターがあったはず。
いや、今この世界は女性はいない。
俺とセラフィリーアの記憶か混ざる。
あぁ、これは夢なんだろうな。
そう思いながら、俺は目を閉じた。
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