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「……アスラン……俺に、どこか変なところはない?」
何度目かの問いかけにやはり何度目かの同じ答えが返ってくる。
「いいえ、いつもセラフィリーア様はお美しいです」
透明なグラスの中でカラリと音をたてる氷を見てから、俺は冷たい果実水を口に含んだ。
おかしいと思われないように言葉を選んでアスラン……俺の侍従だと言う美形の青年から聞き出したのは、やはりここは俺の知っているゲームの世界に酷似していて、違うのは俺は王女ではなく、王子だということ。
設定していた第3王女ではなく、第5王子であり、末っ子だった。
兄4人のうち、2番目と4番目は嫁いでいるらしい。
俺もそのうち伴侶ができるだろうとのことだが……
伴侶って、男……だよねぇ、間違いなく。
ゲームプレイヤーだった俺は、ガチのオタク。
それに、コスプレイヤー。
しかも、衣装は全て自分で作成するタイプだ。
見た目は日本人に多い安定の醤油顔で、まぁ、化粧映えはすると言われていたけれど、やっぱり彫りの深い顔立ちに憧れていた。
だから、ゲームくらいはと、ド派手な顔立ち、ナイスバディ、ちやほやされる女性アバターと、自分の希望の設定を盛り込んだ。
服も、胸を強調するような、デコルテが深く胸の下で布を絞り、踝丈にしたスリーブレスのドレスに編み上げのサンダル。
髪はその時によってフルアップやハーフアップに変えてきた。
アバターの見た目はもちろんだが、自分の作るファレナスと言う国にも力を入れていた。
気候の安定した産業国家。
主な産業は穀物と花卉だが、果物や野菜なども自給自足で賄え、川や海での漁業もそれなりにできた。
隣国からの輸入は香辛料など。
また、城の外装、内部等も細かく設定をした。
元々造形などが好きだったため、色々と考えて国を作り上げた。
そして、城に来てくれた他のプレイヤーと楽しく交流をしていた。
それなのに……どうして。
思い出そうとすると、痛む頭。
ぐらりと身体が傾ぐと、慌ててアスランが抱き止めてくれた。
「セラ様、もう少しお休みになられてください。目覚められましたらお食事を用意いたします」
軟らかな囁きに、微かに頷きを返した辺りで再び意識を失うように俺は眠りに落ちていくのだった。
俺はそれから少しずつセラフィリーアの感覚を共有していった。
流行り小説や漫画では異世界転生ものだと、何かの衝撃で一気に覚醒をするのが多いけれど、そんなこともなく。
その日その日で思い出したことを少しずつノートに書き留めていく。
セラフィリーアとの感覚の違い。
ゲームの時に交流していたアバターには中身がいるわけではなく、一人の人間であり、意思を持って動いている。
つまり、この世界はゲームに良く似たゲームとは異なる世界なのだと実感した。
ゲーム内で起こったイベントと似たイベントが起こったりしたが、求める結果が違ったりそれなりに楽しんで日々を過ごしていた。
あの出来事があるまでは。
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