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「セラ」
「ディー兄様!」
庭の一画、硝子の温室の中で声を掛けられると慌てて読みかけの本の間に栞を挟み居住まいを正し座っていた椅子から立ち上がると、入口に立つ兄を迎え入れる。
「読書をしていたのか?」
「はい」
優雅な足取りで入ってきたのは一番上の兄で、ディートリッヒ。
四人もいる兄は上からディートリッヒ、ナーサルディア、フェリド、アリエス。
ナーサルティアとアリエスはそれぞれ隣国と国内の侯爵家に嫁いでいる。
「今、お茶を持って来させます」
手元にあったベルをチリンと鳴らすと、アスランがワゴンを押しながらやってくる。
流石、俺の侍従は仕事が早い。
「悪いな、アスラン」
「いえ、ディートリッヒ様もハーブティーでよろしいですか?」
「あぁ」
ディー兄様が座った後に俺も座る。
すっかり温くなってしまったハーブティーをアスランがいれなおしてくれ、軽く摘まめるクッキーを皿に乗せてから下がっていった。
優雅な所作でディートリッヒがカップに口をつける。
ふわりと香るハーブに小さく息を吐いた。
アスランのお茶はいつ飲んでも何を飲んでも美味しい。
いつも優しく暖かい味だ。
「父様から聞いた」
「はい…」
「セラももうすぐ成人だ。それに間に合わせようと書簡を送ってきたのだろうが、面識は無いのだろう?」
「全く」
「まぁ、誉めていいのは正妃にと望んできた点だが、通常ならばもっと前から婚約して結婚だろうに。
セラ、父上が言っただろうが、お前は大切な弟だ。いくら大国に望まれようとセラが婚姻を望まないのであれば、私達は断固として拒否をするつもりだ」
普段から穏やかな兄が捲し立てるように言葉を紡ぐのは、怒りを腹に据えているからだと長い経験からわかっている。
男らしい美貌が歪められる。
だが、美形は何をしても美形だなと思ってしまう。
「ありがとう、ディー兄様。少し考えたいとお父様にも申し上げました。
今、アスランに頼んでアルトリアの現状がわかるものをお願いしています。
それと、お父様にも確認したのですが…俺を欲しいと言っているのはアルトリアの国王で、俺を嫁に欲しいと言うことですか?婿ではなく嫁?」
確かに自分の見た目は女性的。
いや、女性を作ったから仕方がないが、この世界は男性しか居ないのだ。
それに、ファレナスは恋愛婚が多い。
父と母も、兄達も恋愛をして結ばれた。
だから、自分もと思っていた矢先の出来事で正直、どうしていいのかわからない。
「そう聞いているが…」
「ディー兄様、ありがとう。アルトリアの使者様か帰るのはあと5日あると聞きました。それまでには答えを出します」
ハーブティーを飲み干して、目を伏せる
気持ちは決まっているが、ギリギリまで足掻きたい。
セラフィリーアは白いドレスの端を軽く握り締めた。
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