#002 / 百腕-Never Land' II-

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「なにしにきた、あほ」 「あほめ、なにしにきやがったなのです」  目的の神社に辿り着いた途端、睨まれた。  鳥居の下で遊んでいたらしい小娘二人。着物なんか着込んで下駄まで履いた時代錯誤の双子。揃いの和人形みたいな青の瞳と緑の瞳。そいつらが、不機嫌そうに俺を見上げてくる。  いきなり出くわすとはついてない。 「……雪音さんはどこだ?」  できるだけ刺激しないように話を逸らす。 「(みどり)、はむらがなんかいってるよ」 「(あい)、みみをかしてはいけないのです。きっとようせいさんにはなしかけているのです」  逸らせなかったらしい。  まずいな、殺されるやもしれん。 「あ、はむら。そうぞうをぜっするほど巨大なれっさーぱんだが階段をかけあがってくる」 「はぁ?」 「すきやきっ! なのです」 「な──うおおおおおおおおお!?」  隙アリと言いたかったらしい。  油断していた俺は見事に蹴落とされ、階段を転がり落ちた。派手に。ずだんっぼてぼてぼてーっと。視界ぐるぐる、のち沈黙。 「…………」  信じられない心地で頭に手を当てる。  血は出てない。  かすり傷で済んでいた。  だがしかし、まごうことなき殺人未遂である。 「おまえら! いくらなんでも死ぬだろうが!?」  絶叫するが、遅かった。 「いくよ碧」 「はいなのです、藍」  あ、やべぇ。  階段の上で双子が頷き合い、俺を睥睨しながら、ぱん、と手の平を合わせた。 「「──花無華(はなむけ)」」  刹那、階段全体を風が吹き抜け、一瞬にして白い霧で覆ってしまう。  はらはらと注ぐ無数の花弁。  あっという間に、双子の呪いによる抜け出せない無限回廊が完成していた。 「……おい」  効能は確か、無限化とか捕獲とかそんなんだ。  たとえばいま俺は階段にいるので、この階段が無限になったということになる。  階段上を目指したところで永遠に辿り着けないし、逆に駆け下りても辿り着けないし、階段の外に跳べば逆サイドに着地する。そんな悪質な呪いだった。 「にゅっふっふっふ」 「むっふっふっふ」  檻の中の俺を遥か頭上から見下ろしてくる双子。  双子の、悪霊。  この神社に寄生している害悪だ。 「えぇと……出してくれる、んだよな?」 「やだ」 「たすけるりゆうがないのです」  このまま野垂れ死ねと言いたいらしい。  無邪気にして残忍。子供って純真、ゆえに酷薄。 「はぁ……」  仕方なく、無駄と分かりつつも俺は歩き出す。重い足取りで。妖艶な花吹雪の中を。野良犬に噛みつかれた心境だった。 「はいはい、そこまで」  途端にぱんぱんと響く音。誰かが手を鳴らしたらしい。  階段の頂上に現れたもう一人のシルエット。カタチは和服、声は名琴。 「藍、碧。羽村君を解放して」  あきれた声に促されて、双子は渋々俺を見下ろした。シルエットだが分かる。きっと獲物を逃がしたケモノの瞳。 「うみゅ、姉様がいうならしかたないな」 「はい、姉様がいうからしかたなくなのです」  ざぁぁあああと霧が引いていく。花弁もさらりと消え失せる。  安堵する俺を見下ろして、彼女はいつもの明るい笑顔で言った。 「いらっしゃい羽村君。待ってたわよ」  白い小袖と緋袴の巫女。  縁条市狩人総括、早坂雪音さんがそこにいた。
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