#002 / 百腕-Never Land' II-

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「夜になったら出るぞ。行き先は青柳高校経由でたぶんあの世だ。総員、遺書は早めに書いておくように」 「「「…………」」」  ようやく家に辿り着いた途端、先生はそんな悲しいお知らせをした。  We will die.  玄関に、重々しい沈黙が充満する。 「えっと、あのねお姉さん」 「ん? なんだね死刑確定の亡霊少女」  勇敢な吉岡雛子嬢は、何故か満足げに笑っている先生を見上げて、嘆息した。 「……笑えない。ちっとも笑えないから、色々」 「そうか? 不思議だな少女、オレは最高に楽しいぞ」  はっはっはっはと一人勝手に笑ってリビングに去っていった。  静かになった玄関で、雛子が声を潜めて言ってきた。 「……ねぇ。あの人っていつもあんなトゲトゲなの? 正直コワイ」 「いや、まだ刀抜いてないだけ穏やかだと思うぞ」 「はぁ? なんで家の中で刀抜くのさ、意味わかんないし」 「俺にもわからんが、どこでも抜くんだよあの人は」 「あ──」  靴を脱ぎ終えた俺は、不意にふらついたアユミの肩を支える。 「さて、んじゃ包帯代えるぞアユミ。一人で階段上がれるか?」 「平気だよ。羽村くんこそ、いまのうちに休んどいた方がいいんじゃない?」 「はん。そんな血みどろで何言ってやがる」  気を紛らわせるために、意地の張り合いなど嗜んでみた。どうでもいい。 「雛子、適当にくつろいでてくれ。なるべく家から離れないようにな」 「二人はどうするの?」 「いったん二階だ。包帯変えたり休んだり。傷口は消毒も必要だしな」 「んじゃあたしもついてくし。救急箱どこ? 先に上行ってて」 「おう。そこ入ってキッチン側の廊下だ、悪いな」  小走りで駆けていく背中を見送って、俺たちはしばし無言になった。 「…………」  小さな背中。  何一つとして変わらない、けれど時折輪郭が霞んでしまう少女。 「……ねぇ羽村くん」 「うん?」 「やっぱり雛子ちゃんだね。少し悲しいけど、でも会えて嬉しいよ、わたし」  アユミの横顔は、あの日の『おねえさん』のものだった。 「……そうだな」  たとえ復讐を願った残照だとしても。  人のカタチをした呪いでも。  雛子が俺たちのことを覚えていなくても、それでも、こうしてまた会えたことを素直に喜んでいいのかも知れない。 「また一緒に遊びたいね……」 「遊べるさ。雛子が残留してる間は、きっといくらでも」  関係が失われたのなら、もう一度繋ぎ直せばいい。もう一度友達になればいい。そうしてまた、どつき合えるようになればいいんだ。 「そのためにも、いまはがんばらなくちゃな」 「うん……がんばる」  相沢ユウヤ。  全域知覚。  宝生優奈。  行方の分からない少女・香澄。  そして、まだ正体の分からないネバーランド。 「………」  静かに、顔を上げる。  ──出立は夜だ。  目的地は青柳高校。そこが、相沢との決戦の舞台となるだろう。
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