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──夢を見た。
とても淋しい夢だった。
ひとりきりの世界。
自分より大きな背中に埋め尽くされた、白い街。
人波に押し流されて彷徨うアスファルトの上。
歩いて、歩いて、歩き続けていると次第に足が痛くなってきた。
ボロボロの靴。
底が剥がれ、紐が千切れ、泥だらけになってしまった一足きりの靴。
そんなボロクズは自分によく似ていた。
立ち止まる。
誰も見向きもしない。
自分などいてもいなくても同じだと語る背中たちの壁。
大きな、大きな……背中たち。
息が苦しい。
太陽が眩しい。
ああ、お腹が空いた。
どうして自分は、こんな場所で一人きりなんだろう。
どうして自分は、誰にも愛されないのだろう。
そんなことを考えながら見る空は、ひどく掠れた白色で。
自分の居場所なんてこの世のどこにもないのだと……ただそれだけを教える、そんな夢。
「──!」
淋しくなって、駆け出した。
たくさんの背中とぶつかりながら走り続けた。
千切れ掛かっていた靴は脱げてしまって──
裸足になって、小石で肌を傷付けられてもずっとずっと走り続けて──
……辿り着いた場所は、夜の街だった。
真っ暗な夜道の真ん中。
誰もいない。
無機質な背中さえもない。
ただ、自分を呑み込もうと蠢く影だけがある世界。そんな中で。
「やあ、きみ。こんな時間にどうしたの?」
「え……?」
後ろから肩を掴んできたのは、大きな右手の悪魔だった。
悪意に翳った目と唇は。
ぜったいに関わってはいけないものだと知っていたのに。
「……あのね。道に……そう、道に迷っちゃったんだ」
それなのに自分は、笑顔さえ浮かべながら関わってしまった。
「そうか、それは大変だね。それじゃおじさんが家まで送ってあげよう。車に乗りなさい」
ばたん、ぶろろろ。
そうして車は走り出す。トンネルを抜けたら遊園地だよと悪魔は言った。だけど自分は知っていた。そのトンネルの先に希望なんてないことを。光なんてないことを。
分かっていたけど、期待してしまった。
もしも。
もしも本当に、あの先に遊園地があるのなら。
きっともっと、楽しく笑えるんだと。
きっとこのおじさんだけは、他のヤツと違って優しい人なんだと。
そんな、夢みたいな真っ暗なユメ。
だって、願わずにはいられないでしょう?
自分だって、本当は…………………誰かに、愛して欲しかったんだから。
だから──
+
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
やめて。
どうして?
どうしてこんなことするの?
いやだ、痛い、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ──!
+
──だから。だから? だから、死んでしまったのだろうか。
わからない。
よく、分からない。
山に捨てられた自分の死体を見下ろしながら、考える。
だって自分は子供だったから。
本当は『死ぬ』って言葉の意味さえも、よく、分かっていなかったんだ……。
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