#003 / 天使-Never Land' III-

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 ──夢を見た。  とても淋しい夢だった。  ひとりきりの世界。  自分より大きな背中に埋め尽くされた、白い街。  人波に押し流されて彷徨うアスファルトの上。  歩いて、歩いて、歩き続けていると次第に足が痛くなってきた。  ボロボロの靴。  底が剥がれ、紐が千切れ、泥だらけになってしまった一足きりの靴。  そんなボロクズは自分によく似ていた。  立ち止まる。  誰も見向きもしない。  自分などいてもいなくても同じだと語る背中たちの壁。  大きな、大きな……背中たち。  息が苦しい。  太陽が眩しい。  ああ、お腹が空いた。  どうして自分は、こんな場所で一人きりなんだろう。  どうして自分は、誰にも愛されないのだろう。  そんなことを考えながら見る空は、ひどく掠れた白色で。  自分の居場所なんてこの世のどこにもないのだと……ただそれだけを教える、そんな夢。 「──!」  淋しくなって、駆け出した。  たくさんの背中とぶつかりながら走り続けた。  千切れ掛かっていた靴は脱げてしまって──  裸足になって、小石で肌を傷付けられてもずっとずっと走り続けて──  ……辿り着いた場所は、夜の街だった。  真っ暗な夜道の真ん中。  誰もいない。  無機質な背中さえもない。  ただ、自分を呑み込もうと蠢く影だけがある世界。そんな中で。 「やあ、きみ。こんな時間にどうしたの?」 「え……?」  後ろから肩を掴んできたのは、大きな右手の悪魔だった。  悪意に翳った目と唇は。  ぜったいに関わってはいけないものだと知っていたのに。 「……あのね。道に……そう、道に迷っちゃったんだ」  それなのに自分は、笑顔さえ浮かべながら関わってしまった。 「そうか、それは大変だね。それじゃおじさんが家まで送ってあげよう。車に乗りなさい」  ばたん、ぶろろろ。  そうして車は走り出す。トンネルを抜けたら遊園地だよと悪魔は言った。だけど自分は知っていた。そのトンネルの先に希望なんてないことを。光なんてないことを。  分かっていたけど、期待してしまった。  もしも。  もしも本当に、あの先に遊園地があるのなら。  きっともっと、楽しく笑えるんだと。  きっとこのおじさんだけは、他のヤツと違って優しい人なんだと。  そんな、夢みたいな真っ暗なユメ。  だって、願わずにはいられないでしょう?  自分だって、本当は…………………誰かに、愛して欲しかったんだから。  だから── +  痛い。  痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。  やめて。  どうして?  どうしてこんなことするの?  いやだ、痛い、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ──! +  ──だから。だから? だから、死んでしまったのだろうか。  わからない。  よく、分からない。  山に捨てられた自分の死体を見下ろしながら、考える。  だって自分は子供だったから。  本当は『死ぬ』って言葉の意味さえも、よく、分かっていなかったんだ……。
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