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──深夜になってもまだ、雨は降り続けていた。
誰もいない児童公園の土。しずくが柔らかい地面に衝突し、粉々に弾け、水たまりに吸収される。
長い長い雨だった。
あまりにも長かったものだから、公園の砂場横には雨水の小川が流れていた。
押し流される砂と、泥。
終わらない雨の音に混じって、どこからか甲高い声が響いている。二人分の声は深夜にも関わらず楽しげにはしゃいでいて、ばしゃばしゃと下駄で水溜まりを踏み割りながら公園に駆け込んできた。
藍と碧という名前の、双子の悪霊だった。
着物を身につけ下駄まで履いた時代錯誤な亡霊たちは、公園に足を踏み入れるなりぴたと立ち止まる。
声を上げるのもやめて、ただ温度のない瞳で砂場の横の水溜まりを見ている。まるで並んだ人形のよう。
「「 ──くす 」」
しかしそれにも飽きてしまったのか、またばしゃばしゃと水溜まりを踏み割って走り始めた。
ばしゃばしゃと公園を、砂場の横の水溜まりの周囲ををぐるぐる駆け回る。
双子は笑う。
くすくすくすくすと、無邪気に笑い続ける。
雨の中。
水溜まりは押し流す。泥と、砂と、赤色を。
双子は笑う。
くすくすくすくすと笑いながら、踊るようなステップで廻り続ける。
大きな水溜まりの真ん中で眠る、誰かの周りをまわり続ける。
「くす。くすくすくすくす。ねぇ碧、死んでるよこいつ。なんで死んだのかな?」
「くす……ふふ、くすくすくす。ねぇ藍、死んでるなのです。こいつ、あたまを失くして死んでるなのです」
「くすくす……そっか。あたまがないから死んだのか」
「ふふ……きっとそうなのです。死んでしまったから頭がないなのです」
「碧、雨の日は楽しいね。ばしゃ、ばしゃ。」
「藍、雨の日は楽しいねなのです。ざば、ざば。」
顔を無くした死者は物言わず。
水溜まりは陽気に踊る。雨の中、月明かりのような街灯の下。
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