#004 / 雨詩-Clear rain'-

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 闇に沈んだ真夜中の廃工場で、その少年は一人きりだった。 「………」  金髪の。  背の低い、柔和な瞳の高校生。 「……雨か」  パイプ椅子に座って脱力したまま、彼は静かに天井を見上げた。灯りひとつない夜の中。街灯に照らされた雨がレースのカーテンのように降り注ぎ続ける。 「……泣いてるの? 亜由美」  足元には缶コーラ。ついさっき、見知らぬ少年に奢ってもらったものだ。茶髪にチェーンのピアスなんかつけた不良だったが、なんとなくあの少年のことは気に入っていた。  そんなことを思い返す表情はどこか色抜けた微笑。ひどく、何かの欠如した瞳だった。 「心配しなくていいよ亜由美。泣く必要なんか、何もない」  自身の半透明の手を見下ろしても、彼の笑顔は一ミリも動かなかった。  その人差し指がまっすぐに伸ばされ、遠くに落ちていたゴミ袋に向けられる。  雨音の中。  彼の呟きだけが、小さく響いた。 「……ばーん」  言葉に唱和する現実。  ポリ袋が弾け、中身を溢れさせ、沈黙した。  また雨音だけが取り残される。  夜闇の中で。 「もうすぐ、助けに行くから──さ」  そんな呟きも、聞く者はなく。  誰も彼の存在には気付かない。  ──その亡霊の名は、吉田流星という。
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