#005 爆音-MetalxHeart'-

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 ずがしゃーん。  そんな音を立てて次々と倒されていく木。  神社の景観が少しだけ変わり始めていた。  植物とは緑色の景観を構成する風情そのものだ。人間で言うところの服装、研究室でいう所のテーブルの綺麗さ、教室でいう所の机の並び。  そして神社でいう所の木。  木とは地中深くに根を張る植物で、よほどのことがない限り倒れるなんて有り得ない。そう、何かの間違いで幹が折れたりしない限りは。 「いいかげんにしなさいよクソ魔女! あんた一体あと何本折るつもりよ!」 「……」  叫びと視線が火花を散らす。  喧嘩である。  取り合わせも相まって大して珍しい光景でもない。  そも、ハブとマングースを睨み合わせておいて喧嘩するなという方が無理な話。一触即発を極める女二人の向こう側で、着物の双子が何かを担いで神社から出てきた。  双子はよいしょとそれを縁側に寝かせ、興味深そうにぺたぺたさわり始めた。 「……ねぇ碧。なんだろねこれ」 「藍、たぶん楽器なのです。ぴろんぽろんと轢けばいいと思うのです」  埃まみれのキーボード。  華やかな着物が汚れていくことに構う双子ではないし、唯一気付いて注意できる姉様は竹箒VS日本刀の雅な試合に熱中しているところだった。 「そっか、轢けばいいんだね。ぴろんぽろん」 「ぽろんぴろん」 「……」 「……」  しばらく鍵盤を叩く双子だったが、飽きた頃に藍が顔を上げた。 「碧、なんにもならないね」 「おかしいのです。きみょうなのです。きっと呪われているのですコイツ」 「そっか、呪われてるからだんまりなんだね」 「はい、きっとだんまりだから呪われてるのです」  何度鍵盤を押しても鳴らない。コンセントなどという面倒な準備を考える双子ではなかった。 「碧、がっきってつまんないね」 「藍、おんがくなんてつまらないのです。こんなものはふもうなのです」  あっさり興味を失った。  キーボードを放置し、双子はふと姉様と魔女を見やった。  声を上げ、殺し合っていた。 「碧。おとなはこわいね」 「藍。おとなはこわいこわいなのです。きっと関わっちゃいけないなのです。しょうがないのでビー玉しましょなのです」 「うみゅ。きょうこそはこの、藍とくせい・最強ビー玉が碧をたおす」 「藍、それはビー玉ではなく鉛玉なのです。さすがにひきょうなのです」 「えー。でも碧だって四ばいビー玉つかうよ」 「四倍ビー玉は大きいけどビー玉なのです。じゅんぜんたるすぽーつまんしっぷにのっとっているのです」 「そっか……じゃ、しかたないね」 「はい、しかたないなのです。でもきょうは、藍にこの四倍をゆずってあげるなのです」 「わ。碧やさしーね」 「いいのです、これもじゅんぜんたるすぽーつまんしっぷのなせるわざなのです」  それっきり、特に何が起こるでもなかった。  或いは平穏な日常が続いていく。  ただひとつだけ平穏に紛れ込んだ不吉。神社の片隅で、黒い呪いを滲ませる神木には、いまは誰も気付かない。
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