#005 爆音-MetalxHeart'-

9/16
前へ
/79ページ
次へ
「1番団長、雛子!」  キラーン。 「2番隊長、優奈!」  しゃきーん。 「3番組長……香澄」  どよ~ん。 「私たち、三人合わせて、バレットガールズ特選隊ッ!!」  じゃきぃぃぃいいいん  それは、近所の道路の真ん中に現れた。 「…………」  なんかそれぞれ『ぷりちー』な決めポーズしている。三人合わせると前衛的な彫像に見えなくもない。 「……えーと。何ごっこだ?」 「ごっこじゃなーいーよー! あたしたちはほんとーに特選隊なんだよーっ!」  ぶんぶん腕を振り回して雛子が叫んでくる。よくわからんけども。 「はっ!? あっれーすごい偶然だねリョウちゃん、まさかこんな所で会うなんて」 「家の近所だっつの。つかその呼び方だけはヤメロ、母親思い出して鳥肌が立つ」 「そういえば前から考えてたんだけどさ。あたしなんて呼べばいいの?」 「羽村でいいだろ普通に。じゃなきゃ君付けが一般的」 「えー……羽村くん? なんかキモイ」 「なら呼び捨てでいい」 「羽村……それは気不味いでしょ。年上だし」 「ならいっそ新しいニックネームでもいい。呼び方なんてなんでもいいんだよ、失礼じゃなくて、相手の合意が取れてれば」 「ニックネーム?」  むむ? と眉根を寄せて、雛子がひそひそと横の組長に振った。 「……ね、どうしよう香澄ちゃん。なんかいいアイデアある?」 「…………はねはね……はむはむ……はねにぃ……オッサン」 「ああ、そんなんでいいだろ。でもラストだけ不許可だ」 「羽にぃか……」  雛子が口の中で繰り返す。 「いいね、それいただき!」 「決まったか」 「うん決まったよ! やっぱオッサンでいいや! 一番分かりやすいし!」  むんずと襟首掴んで持ち上げる。猫のように。 「だから不許可だっつってんだろ」 「冗談だってー。もう、マジメだな羽にぃは」  やっぱそれか。 「で? どうした、プリクラでも奢らせようってハラか」 「あっ、いいねそれ! 四人一緒に撮ろっか!」 「うち三名は心霊写真なわけだが」 「が、がーんっ!? 乙女の嗜みがヤな感じのホラーになってる!?」  変わらず元気な金髪少女だった。  香澄はいつも通り物静か。何考えてるかは不明だが、この三人の中では一番大人だ。  が、一人だけ我慢するように黙り込んでいるヤツがいた。 「……あれ。元気ないな、どうした?」 「っ!?」  天女のような少女・優奈が肩を震わせる。目を回しながら言ってきた。 「な、ななな、なんでもないよっ! ははは話しかけないで!」 「おっと……そうだったな。確かお前はそんな感じのキャラだった」  なんでも大のオトナ嫌いとかなんとか。  まぁいまさらな話、世間一般から見れば俺も充分ガキなんだが。  優奈は小さく呟いた。 「…………羽にぃ、か」 「ん?」 「…………羽にぃ」 「ああ、なんだよ」 「羽にぃ……」 「だからなんだって」 「………………別に。呼んでみただけ」  つん、とお澄ましされる。ようわからん。 「みっしょんすたーとぅ!」 「は?」 「って、なになに!? はなして香澄ちゃん、あたし地面にキスする趣味はないから!?」  見やると、何故か香澄がじたばた暴れる雛子を押さえつけている場面だった。  香澄の眠そうな目が俺を見て呟く。儚い笑顔で、皇族のような緩やかさで手を振った。 「…………急用。ばいばい羽にぃ」 「え? ああ、そうか。んじゃまたな」 「…………でも困る。優奈は連れていけない」 「はぁ。なんか、不味いのか」 「…………うん。やむにやまれぬ子供の事情」 「そうか、んじゃしばらく俺が面倒見てる」 「っ!?」  またびくり。優奈が肩を震わせ、目を回し、叫ぶ。 「か──香澄、やっぱりわたし、やっぱりわたし……!」  答える視線は霧のよう。底なしの無気力が、ふと空を見上げる。 「…………あ、テポドン」 「んだと!? くそ、あのイカレポンチめとうとうやりやがったか! どこだ!? どこから来る!?」 「うそ!? ううううそうそうそ!?」 「どこ!? 香澄ちゃんテポドンどこおおおおおぉぉぉ……」  俺たちが空を見回しているうちに、香澄に引きずられる雛子の声が遠くなっていく。土煙を上げてどどどどーと逃げていく。  それを見送って理解した。 「はは、なんだ冗談かよ驚かせやがって……危うく昼間っから短刀振り回す所だったぜ」  いい性格してやがる。  なにせいつ来てもおかしくはないだろう、テポドン。 「ぁ……あ」  取り残された優奈は青ざめ、なんか絶望しているらしかった。 「…………おい。どした?」 「ひぃいっ!?」  肩に手を触れようとした途端、思い切り引かれた。  物凄い視線で睨みつけられる。はぁはぁと息まで切らしている。あまりの憤怒に顔が真っ赤だった。 「……あ」  そうかそうだな。こういうのも昔で言えばセクハラ厳重注意、現在で言えば痴漢で厳重禁固となるようなならないようなだもんな。気を付けよう。相手を立派な淑女だと思え俺。 「…………とりあえず、行くか」 「…………」  こく、と優奈が頷いた。  しかし目を合わせようともしないご無体。やばい。完全に嫌われた。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加