#005 爆音-MetalxHeart'-

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 ゲーセンは駄目だった。 「…………」 「…………」  ポケットに手を突っ込み、俺は黙々と歩き続ける。  隣に優奈。さっきよりも元気ない。 「はぁ……」  こっそりと額に手を当てる。  やってしまった。俺がアホだった。ゲーセンで亡霊と一緒に遊べるはずがなかったのだ。さんざん気まずさを乗算するだけだった。  仕方なしに、またこうして商店街を歩いているわけだ。 「…………」 「…………」  会話もない。唯一さっきのゲーセンで出来たのは相性占いだけだった。素敵なタイミングで『最悪』と出て泣きそうになった。  ちらりと横顔をのぞき見る。  綺麗な少女だ。  長い髪を流しながら、かすかに困ったような表情で、時折こちらを窺っては視線が合っ た途端に顔を逸らす。  足を止め、青空を見上げて立ち尽くす。 「……どうすりゃいいんだ」 「えっ?」  亡霊と一緒に遊べるスポット。  思いつかない。そんなのどこにもあるわけがない。助けてくれアユミ、どこ行っちまったんだよぅ。 + 「おっっっねぇちゃーん!」 「え?」  遠くから声が聞こえて、わたし・高瀬アユミは顔を上げた。  場所は早坂神社の真下。石畳の一段目に腰掛けていた。  昼寝していた猫が、何かに気付いて逃げていく。すり替わるようにずだんっと現れる女の子。 「あ、雛子ちゃん」 「アユ姉、ちわっす!」 「……ちわっす」  ビシと敬礼する雛子ちゃんに倣い、香澄ちゃんもゆるりと敬礼した。 「はい、ちわっす。それで、作戦はうまくいった?」 「はいっ! 優奈ちゃんはいま、羽にぃとデリート中なのでありますっ!」 「……デート」 「デート中なのでありますっ!」  きらん、とわたしは目を光らせた。それはもしかして―― 「それは優奈ちゃんの希望?」 「いいえ全然。優奈ちゃんにそんな気持ちはサッパリ皆無なのであります。あたしが無理矢理させたと言いますか」 「だよねぇ」  先の電話。雛子ちゃんから連絡があって、接点の薄い――この前のネバーランド事件のことを考えれば、むしろ険悪になってるかも知れない、羽村くんと優奈ちゃんを二人にした。  雛子ちゃんは困ったように説明しようとする。 「えっとね、これには事情があって。その、なんていうか――」 「分かってるよ。友達同士、仲良くしてほしかったんでしょう? よしよし、よく出来ました」  頭を撫でると、雛子ちゃんは嬉しそうに満面の笑顔を浮かべた。この子はふざけているように見えて、自分のことより周囲のことを考えているタイプだ。――こちらが気をつけないと、自分を犠牲にしてしまうくらいの。  香澄ちゃんが、静かにこちらを見上げてくる。 「……仲良く、なれるかな。優奈と羽にぃ」 「なれますとも。羽村くんだって、優奈ちゃんのことはずっと気にかけていたし」  少し前に起こった、ネバーランド事件の顛末。  事件の結末を考えれば、親しい人を失った優奈ちゃんはひどく傷ついているはずだ。そこを考えない羽村くんではない。 「ま、もしうまくいかなかったとしても、あたしたちで手助けするよ! いっそ二人でどっかに監禁しよう! 孤島とか地下ダンジョンとか、ぜったい手を繋がないと出れない部屋とか!」 「ダメだよ雛子ちゃん、発想の犯罪係数が高めだよ?」 「あっはっは! あっははっはっはっはっははっ!」  ばかウケしている。小さい子のツボはよく分からない。  ――――――その時。 「「「!?」」」  爆音が、早坂神社を激震させた。 「う……っ!」 「うなぁぁぁっ、何!? アユ姉! この音なに!?」  思わず耳を塞いだ。  石畳の頂上から。ものすごい強さの『音』が、雨のように降ってくる。空気が割れてしまうくらい。そのくらいに、壮大な轟音。びりびりと石畳が叩かれ、木の葉が狂ったように揺らされ、樹木をみしみしと軋ませる。  塞いでても耳が痛くて、頭蓋が内側から揺らされる。気を抜けば気絶しそうだ。  目の前に、飛んでいた鳥が墜落する。  ――なんだろう。分からないけど、これは異常事態だ。 「二人はここで待ってて! すぐ戻るから!」 「アユ姉!?」  早坂神社の石畳を駆け上がる。  耳をつんざく何かの悲鳴。何だろう。一体境内で何が起こってるんだろう。  背後の声。 「…………雛子ちゃん、行こう」 「うん、分かってる! 待ってアユ姉! あたしたちも行くよっ!」  重力場みたいな轟音が、降り注ぐ。
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