友人

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 ドバッと返り血がブレザーを汚す。    洗濯……はもう出来ないか。まったく面倒なことになったものだと思いながら木刀を振り回す。そこに表情の変化はなかった。 「涼ちん……」 「ん? どうかしたの」  血生臭さと腐臭に囲まれたアスファルトの上。未だ開きっぱなしの校門の前で敵の一掃をした僕達。  後ろから聞こえた声に振り返ると、どこか不安げな上原が。 「おいで」  招くまま近寄ってきた彼の爪先から頭の上まで仔細に観察し、傷がないことを確認してからそっと血濡れた彼の髪を撫でた。 「気持ち悪い? 吐き気する?」 「……ちょっとだけ〜」 「うん、無理しなくて良いよ。初めてだし」  周りを見渡して、数十キロほど先のビル街からもくもくと灰煙があがっているのを視認する。  ここが都心部から外れた郊外で良かった。ゾンビ達がやって来るのにまだ猶予がある。  とりあえずは── 「上原、校門の中まで行こう。入ったら横になって良いから」  僕にもたれる彼を半ば引きずるような形で校庭の砂を踏みしめると、即座に上原を座らせる。ギィとがなる黒い鉄門を血でぬめる手で押せば、ひとまずの封鎖は完了した。  ふっと空を仰ぐと、真っ黒な鴉が放物線を描き、抜けるような青空のもと膨張し続ける煙が奇妙なコントラストを生み出していた。    僕を見つめる、彼の不安げな視線に、動かない表情筋をどうにかこうにか駆使して笑みを浮かべる。 「吐きたいならここで吐いて」 「俺っち……誰かに吐く姿見られんの勘弁なんだけど。てか……なんか、変な声聞こえなかった? うぇ……気持ちわる……」 「ほら、寄っかかっていいよ。……変な声ね。レベルアップとかいう巫山戯たアナウンスなら僕にも聞こえたかな」 「ん。たぶん……それかも」  一緒に地面に座ると、頭を胸に垂れて来るので優しく撫でてやった。気分は飼い猫の介抱だ。言うまでもなくペットなど飼った試しは無いが。誰かの命を背負うには不適合な人間だと。そういった類いの自覚は『斉藤涼』という人格に深く刻み込まれている。 「う……ぐ」  焼けた肌に、整った濃い顔。直線的な眉は苦しそうに歪んで、彼の厚い胸板は緩く上下していた。    普通の人間はこんなものか。  僕は手持ち無沙汰なのにまかせ、首に感じる熱い息が落ち着くまでしばらく彼の頭を撫で続けた。  毛質の細い、首にかかる程度のやや長めの彼の髪がわりかし心地良いと、そんな呑気なことを考えながら。  
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